イラスト:ソリマチアキラ

 この会社を立ち上げて早や15年。初めの頃は1年に3軒の薬局を作ると心に決めて頑張っていた。当時は、医療機関が続々と院外処方箋の発行に踏み切っていたので、目標達成はそれほど難しくなかった。

 しかし、医薬分業が進み、新規開局は年々難しくなっていった。わずかに残った目ぼしい立地は、大手チェーンが資金力にモノを言わせて、軒並み押さえてしまったからだ。

 大手チェーンと、われわれ弱小チェーンとは“漁法”が違う。彼らは、根こそぎ持っていく“底引き網漁”。こちらは、昔ながらの“一本釣り”だ。勝てる訳がない。

 とはいえ、わが社の間接費はどんどん膨らむし、薬剤師の給与も年々上げていかなければならない。調剤報酬が伸びない中では、多店舗展開をすることによってしか、増収増益を達成できない構造になっているのだ。一本釣りであっても、地道にやっていくしかない。

 一本釣りで狙うのは、新たに開業したいと考えている医師だ。ただでさえ、新規開業は患者数が読めず、薬局にとってもリスクが大きい。医師主導で開業を決めると、患者が来そうにもない立地にクリニックを作って、「隣に薬局を作ってほしい」と言ってきて、後で非常に苦労することになる。そうならないためには、最初から医師と相談しながら、集患を考えた立地を選ぶ必要がある。

 今、私のところには、整形外科医、乳腺外科医、糖尿病専門医、脳神経外科医、精神科医の5人の医師が開業したいと言ってきている。それぞれのクリニックの隣に薬局を作るのはあまりにも効率が悪い。なんとか1カ所に集めて、薬局を1軒で済ませることができないか。つまりは医療モールの建設が、私の以前からの構想であり、それが実を結ぼうとしている。

 医師たちは、それぞれに理想を伝えてくる。骨粗鬆症が専門で健診もやりたいという整形外科医。お金がないのに、MRIを導入して脳ドックをやりたいという脳外科医。管理栄養士を入れて栄養指導もガッツリやりたいという糖尿病専門医──。

 療養担当規則に抵触しないように気を使いながら、MR時代に培ったネゴシエーション力をフルに発揮して、医師たちの要望を聞きながら着々と計画を進めてきた。

 全員が「ウン」と言って、私の構想が現実のものになれば、1日250枚の処方箋応需も夢ではなさそうだ。1日250枚、患者単価が1万円、1カ月20日稼働として、年商6億円だ!

 15年前、わが社に入社した薬剤師は若く、彼らの子どもも小さかった。しかし今では、その子どもたちが高校や大学に入学している。親の背中を見て薬学部を目指す子どもも多いようだ。6年制になり6年分の学費が親の肩にのし掛かる。経済的な負担であきらめるようなことはさせたくないと、私も彼らと同じ気持ちだ。年商6億円の薬局ができれば、社員全員の給与も増やしてあげられるのではないか。

 医療モールが入居するビルの立地条件は、キタやミナミのビジネス街から電車で30分以内の複数路線が入っている駅の近くで、近隣に40代、50代が住む住宅地があること。既に、この条件を満たすであろう候補物件も複数見つかっている。うまくいけば、今年はいい年になるだろう。

 世間は、在宅、在宅と躍起になっているが、私は今こそ、医療モールで勝負したいと思う。今年の初夢は、医療モールオープンの日、患者がワンサカ薬局に来ている夢だった。(長作屋)

(「日経ドラッグインフォメーション」2013年1月号より転載)