今回ご紹介するのは、開業10年になる医療法人の内科診療所のケースだ。院長の評判が良く、患者数は1日平均70人を超える。給与面の待遇も厚く、他の診療所と比較すると年収で10〜15%ほど高い。職員数は多めで事務が常勤2人、パート3人の常時3人体制。看護は常勤1人とパート2人の常時2人体制を取っている。
長く同じメンバーで運営してきたが、事務の常勤職員の出産退職に伴い常勤1人を採用。その3カ月後、もう1人の常勤事務職員(勤続6年)が体調不良を申し出て退職し、続けて常勤の事務職員を採用することになった。以前からいるパートの事務職員は3人とも5年以上勤務しており、常勤経験者も含むベテランなので業務指導は問題ないと考え、未経験でも協調性があって人柄の良さそうな人材優先で採用した。
院長の「初動」に遅れ
「このままでは仕事を続けられそうにないんです。辞めさせてください」
新人2人が加わってから2カ月が経過したころ、この2人から院長に相談があった。理由を聞いてみたところ、「事務パートのAさんとBさんの教え方が特に厳しくて付いていけない」とのこと。診療所でも、職員が4、5人集まると相性などもあって職員間のトラブルが発生しがちだ。介入の方法を誤ると、数人が退職するトラブルに発展することもある。
このとき院長が原因究明に取り組んでいればよかったのだが、2人の経験が浅く、辞められても痛手は少ないと考え、院長は退職を受け入れて新たに常勤2人を採用することにした。今回は、人材紹介会社経由での採用を検討。医療事務専門学校の新卒者と、受付経験のある30歳代前半の女性を採用することができた。
ところが、試用期間の3カ月間が終了する2週間ほど前のこと、新人2人から「仕事を続けられそうにありません……」と院長に相談があった。「AさんとBさんの教え方が厳しすぎる」「ちょっとでも間違えると一人ひとり呼び出されて別室で厳しく叱責される」「話し掛けても返事してもらえない」「忙しくても手伝ってくれない」——。新人に対して考えられないような指導方法だ。
このままでは、誰を採用してもAさんとBさんに追い出されてしまう。しかも、新人2人との面談で、AさんとBさんがいないときには看護師Cさんも監視するような態度で見ていることが判明した。ミスがあったら、AさんかBさんに報告され、翌日、また別室に呼び出されてミスの内容をしつこく聞かれ叱責されるという。
ミスの報告は大切だが、こんなやり方をしていたら、新人は萎縮してしまうだけだ。実はCさんも、同僚看護師に冷たい態度で接し、退職者を相次いで生んでしまったという過去がある。Cさんが新人事務職員にどう接しているか、大体想像がついた。
自分の立場が脅かされ追い出し図る?
思い当たるフシもあった。毎月の勤務表を組むとき、Aさんが「新人が休むときには、いつでも私が代わりに入ることができますので」と要望するようになっていたのだ。医事業務の経験のある新人が入ってきたことで、自分の立場が脅かされようとしている。だから、きつく当たることで追い出そうとしているのだと推察された。
とはいえ、今AさんとBさんに辞められると、事務が回らなくなる。そこで、院長と相談。継続的に注意して改善を促し、それでも変わらない場合には辞めてもらうこともあるということを、しっかりAさんとBさんに伝えることとした。
その前に事実関係を確認しておく必要があると思い、まず看護師Cさんに話を聞いた。
「事務の新人はどうですか」。筆者が質問すると、Cさんが「なぜ看護師の私に聞くの?」という表情で訝りながら、「何かありましたか」と逆に尋ねてきた。
「Aさん、Bさんから厳しく指導されていませんか?」「私はよく分かりません」。自分には関係ないというような返事だ。
「新人が次々に辞めたいと言ってきています。何か原因があると思うのですが、心当たりはありませんか」と聞くと、「教えている方も大変なようですけど……」と言う。Aさん、Bさんの肩を持っていることがよく分かる。
筆者は、「大きな失敗もないのに厳しく指導しすぎると、誰でも辞めたくなりますよね。育てる気持ちがないと駄目ですよ。Cさんは一番勤務が長いのだからフォローしてあげてください」と改めてお願いした。そうしたところ、Cさんは「分かりました」と暗い顔で返事をした。