今回の教訓

 この診療所は幹線道路沿いにあり、公共交通機関での通勤が不便であったため、職員にはマイカーでの通勤を認めていた。マイカー通勤管理規程を定めており、マイカー通勤は許可制とした上で免許証、車検証、自動車保険の証券のコピーを定期的に提出してもらい、任意保険については「対人無制限」に加入することを条件としていた。

 だが、50ccのバイクの通勤は安全性に問題があるとして禁止しており、スタッフの保険加入状況まではチェックしていなかった。そこで今回の事故を受け、プライベートでバイクを運転する職員には、自賠責保険の加入の確認をしてもらうとともに任意保険への加入を促した。

 大都市区部にある診療所の場合、マイカー通勤は想定されないが、自転車の通勤にどう対処するかを考えないといけない。自転車は軽車両に該当し、その通行は車道が原則となる。2010年3月、東京や大阪など主要4地裁の交通事故専門の裁判官が「歩道上の自転車事故では原則、歩行者に過失はない」とする新基準を提示している。

 医療機関では近所に住む職員が自転車で通勤することは少なくないが、通勤途中に事故の加害者になることも考えられる。その際、医療機関には使用者責任を問われるリスクがあり、事故のうわさが口コミで広がれば地域での評判を落とすことにもなりかねない。

 近年、自転車事故による高額賠償額を命じられるケースも生じており、自転車通勤管理規程を設けておくことが望ましい。マイカー同様に、自転車による通勤は許可制にして任意保険の加入を義務付け保険証券のコピーを提出してもらうほか、傘を差したり携帯電話を使用しながらの運転を禁止するなど、リスクを回避する手立てを検討しておく必要がある。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
二上吉男(株式会社ずのお代表取締役)●ふたがみ よしお氏。1978年慶應大法学部卒業。上田公認会計士事務所勤務を経て1991年に(株)ずのお(大阪市中央区)開設。診療所の開業・運営コンサルティングを手掛け、これまで350件以上の診療所開業を支援してきた。