ここでいう「職務の内容」とは、まず職種です。同じ看護師であれば次に責任の大きさの違いを見ます。責任の大きさは、与えられた権限、トラブル発生時に求められる対応、成果への期待度などを総合的に判断します。単に「主任」という役職につけているから責任の大きさが違うと判断するのではなく、役職に見合った責任を持っており、それがパート職員と明らかに違うことが必要です。

 次に「人材活用の仕組み」ですが、これは、転勤、職務の変更、配置転換の有無で判断します。医療従事者の場合、パート職員も正職員も職務、勤務地を限定して採用することが多いので、規模の大きな病院以外では、人材活用の仕組みが異なることはほとんどないでしょう。そう考えますと、今までの待遇が差別的取扱禁止の規定に抵触するケースは少なくないと思われます。

今回の教訓

 今回のケースでは、院長にさらに詳しく話を聞いてみたところ、パート職員と正職員で責任の程度が違う部分があることが分かりました。具体的には、繁忙期でもパート職員は残業せず正職員が対応すること、パート職員が家庭の事情でお休みする場合の勤務シフトの穴埋めは正職員がしなければならないといったことです。

 そこで、通勤手当を支給しないことは差別的取扱ではないとし、Aさんには改めてパート職員と正職員の責任などの違いを説明して理解してもらうことになりました。

 今回はパートタイム労働法の差別的取扱の禁止だけを取り上げましたが、改正法では不合理取扱の禁止も定められています。これは、パート職員と正職員の待遇に差をつける場合、職務内容、人材活用の仕組みその他の事情を考慮して不合理と認められるものであってはならないというものです。

 医療従事者の場合、職務ごとの賃金相場が形成されていて労働時間の長短による待遇差にはそれなりの理由があることが多いのですが、その理由を明確にしていないことが多いのも事実です。パート職員から「なぜ、私には○○がなくて、正職員にはあるの?」と質問される前に、業務分担と責任範囲を整理することがパート職員活用の第一歩となります。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
中宮伸二郎(社会保険労務士法人ユアサイド代表社員)●なかみや しんじろう氏。立教大法学部卒業後、社会保険労務士事務所勤務を経て2007年に社会保険労務士法人ユアサイドを設立。非正規雇用問題を得意とし、派遣元責任者講習の講師を務める。