パートタイム労働法という法律をご存じでしょうか? 2015年4月1日に施行される改正パートタイム労働法では、一定の条件を満たすパート職員の「差別的取扱禁止」が強化されます。多くの病医院でパート職員を雇用していると思いますが、パートタイムで働く職員を、正職員に比べて軽んじてはいないでしょうか。

トラブルの経緯

 先日、あるクリニックからこんな相談を受けました。

 このたび、パートの看護師Aさんが、結婚により、お相手の実家近くへ引っ越すことになったそうです。これまでは、クリニックの近所に住んでいたため自転車により通勤していたのですが、新居から通勤するにはバスと電車に乗って40分程度かかるとのこと。Aさんは、院長に通勤手当の支給を求めてきました。

 このクリニックでは他にも3人のパート職員がいますが、全員近隣の住民で、徒歩か自転車で通勤しており、通勤手当の支給はありません。そもそも、パート職員は通勤手当なしの条件を明記の上、募集してきました。

 院長はAさんが引っ越したとしても通勤手当の支払いは必要ないと判断。その旨を本人に伝えましたが、Aさんは「なぜパートというだけで、通勤距離が遠くなっても手当が支給されないんですか」と納得しなかったそうです。院長は答えに窮し、どう対応すればよいかを筆者に確認しようと思われたとのことでした。

院長 パート職員なんだから、そもそも通勤手当はなしでいいんですよね?
筆者 なしと決めても構いませんが、それには理由が必要になります。
院長 理由は「パート職員だから」ですよ。
筆者 それは理由にはならないのです。パート職員は正職員とは職務の内容が違うので待遇も違う、そのために通勤手当は支給されない、という理屈が必要です。担当職務に何か違いはありますか。
院長 正職員もパート職員も同じ看護師ですよ。
筆者 では、職員に、職位とか役職とかってありますか。
院長 10人もいないウチみたいなところで、役職なんて意味ないですよ。
筆者 転勤も配置転換もないですよね。
院長 そりゃ、転勤する先なんてないし、看護師なんだから別の職種に配置転換することはありません。
筆者 それならば、正職員とパート職員の「職務の内容」「人材活用の仕組み」は同じということになります。そうなりますと、正職員に通勤手当を支払って、パート職員に支払わないことはパートタイム労働法の「差別的取扱禁止」に抵触することになるのです。
院長 えっ!? そうなの……?

 2015年4月改正のパートタイム労働法では表1の通り、(1)職務の内容、(2)人材活用の仕組みが同じ場合、賃金、教育訓練、福利厚生の3分野で差別的取扱の禁止を強化しています。今回のケースは改正法施行前ではありますが、改正前であっても、期間の定めのない雇用のパート職員は(1)、(2)が同じであれば差別的取扱禁止の対象になります。

表1 改正パートタイム労働法におけるパート職員の差別的取扱禁止などの規定 (1)職務の内容、(2)人材活用の仕組みの運用がいずれも正職員と同一であれば、賃金、教育訓練、福利厚生に関する差別的取扱は認められない。