開業時の大きなヤマの1つは、オープニングスタッフの確保と採用であろう。それまで就職活動の経験すらなく、大学入試の時くらいしか面接を受けたことがない夫が、突然自院のスタッフを決める面接をし、人を雇うことになった。
夫はまず、前職の病院の同僚看護師に声を掛けた。今思えばこれは失敗だった。失敗というより、きちんと線引きをしての採用をしなければならなかった。それまでの「同僚」の関係から「雇用者と労働者」の関係になる。よほどビジネスライクに物事を進めていかないと、後々頓挫するということを当時は知る由もなかった。
いわゆる「引き抜き」の形になるので、夫は給与や就業条件を当時勤務していた病院よりも好条件にするなど厚遇した。これも失敗だった。度を越した高待遇にしたとて、その後感謝の気持ちは薄れるし、初心は忘れ去られてしまう。しかも、いったん出してしまった高い給料と好条件を、後に下げるわけにはいかない。
私の立場からすれば、夫の同僚となれば、それまでの「あうんの呼吸」があるわけで、仕事の面では口出しをできないし、変な遠慮が働いてしまった。夫もまた「お前は医院に出なくてよい。陰で経理などをしてくれ」ということだったので、診療の部分は任せきりになってしまった。
同僚の友人の採用も裏目に
さらにもう数人のスタッフが欲しいと思ったところ、夫の元同僚が、「友人に声を掛けてみる」ということで、その友人を採用。「オープニングスタッフ集めで苦労することなく済んでよかった」とすら思ったものだった。
しかし、この縁故採用は後のトラブル発生の原因となってしまった。もともとの友人同士であるため、勤務中も家のこと、子どものことなど話題が尽きず、私語も多く、職場の雰囲気にもその2人の影響が色濃く表れた。さらに院長の元同僚ということもあり、他のスタッフは遠慮がちになる。また、話題を合わせないと小さな診療所内では孤立は避けられず、その「友人同士のスタッフ」の意向で何かと決められるようになっていった。
幸い経営が順調に行き始めたので、新しいパート職員を採用した。しかしどういうわけか、次々と辞めていって長続きしない。さすがにおかしいと感じ始めた。
退職するスタッフに理由を聞いても、なかなか本音を言ってくれなかったのだが、ついに聞き出して判明したのは、どうやらその2人が気に入らなければ辞めるように仕組んでいたらしいということだった。小学生のいじめのような構図が出来始めていたのだ。他のスタッフも「あの2人に嫌われたくない」という思いが働き、うまく新人のフォローができない。