先日、あるクリニックから「短時間正職員」制度の導入について相談されました。このクリニックにおける過去1年間の看護師の退職者は、勤続8カ月のパートタイマーが1人のみ、退職理由は自己都合でしたから、目に見える問題は生じていないように思われました。しかし院長によれば、実は2つのタイプの職員間で対立が発生しているというのです。
このクリニックには現在、正職員(フルタイムで月給)の看護師が2人、パートタイム(時給)の看護師が4人勤務しています。パート看護師の時給は、勤続年数が長ければ昇給する仕組みで、本人のやる気やクリニックへの貢献度は賃金に反映されません。つまり、向上心を持って様々な業務に取り組んでいるパート看護師も、そうでない看護師も、勤続年数が同じなら賃金は同じということになります。
「向上心あり看護師」を迷惑に感じる雰囲気
後者のスタッフの中には、「パートなんだから、定型業務をこなしていればいいのであって、ほどほどに仕事をしていればよい」という考えの人に加え、運営に非協力的なパート職員もいるとのことでした。
この結果、「向上心ありパート」は、努力が評価に結び付かないことに不満を持ち、一方「ほどほど型パート」は、同じ立場でありながら業務の枠を広げて働きたがる「向上心ありパート」を迷惑に感じる空気がクリニック内に蔓延。院長は、自己都合で辞めたパート看護師のケースも、この対立関係に退職の主な要因があったと考えているようでした。
退職したスタッフは、正職員と同じように責任を持って働きたいと思っていたにもかかわらず、「ほどほど型パート」に「そんなに頑張られると困る」と言われ続けたため、やる気を失ってしまったというのです。
院長としては、働き方による明確な区分である短時間正職員制度を設ければ、仕事に見合う待遇を実現でき、ひいては短期間での退職を防止することにつながるのではないかとお考えとのことでした。
「多様な正社員」の制度に注目
従来、多くの企業は、原則としてフルタイムで働ける人材を正社員として雇用してきました。しかし、自らのライフスタイルやライフステージに応じた働き方を求める人材が増えてくる中で、最近「多様な正社員」の制度が注目されています。
厚生労働省は、昨年7月、「多様な正社員の普及・拡大のための有識者懇談会報告書」をまとめ、制度導入のメリットと導入方法の詳細を周知しているところです。「多様な正社員」とは、勤務地や職務、勤務時間のいずれかを限定した、役割範囲の明確化された働き方のことです。
短時間正職員はその一形態で、「フルタイムの職員より所定労働時間が短い正職員」のことを指します。今回相談を受けたクリニックでは、短時間正職員制度の導入によりパート職員に正職員としての責任感を持ってもらうことができれば、人材定着率の向上が期待できると考えました。何より院長の制度導入への意欲と期待が大きく、筆者が社会保険労務士として導入のお手伝いをすることになりました。