短時間正職員制度を導入する組織の目的は大きく2つに分けられます。1つ目は、育児や介護などの事情でフルタイム勤務ができなくなってしまった正職員に対する「育児・介護短時間勤務」制度として設計すること。2つ目は、正職員と同じ役割、責任をパート職員に担わせることで、勤務時間に制約のある人材を活用する目的。今回のケースで導入する目的は後者です。

 法令で定められた短時間正職員の定義は存在しないので、自由に制度を設計すればよいのですが、「正職員」という呼称を用いる場合、「月給制」で「昇給」「賞与」「退職金」ありといったイメージが一般的に強くあります。ですから、短時間正職員を魅力的な雇用形態にするには、これらを全て導入することが望ましいでしょう。

職務内容を分解してみる
 とはいえ、パートタイム勤務者とフルタイム勤務者とを同じ待遇にすることはもちろん不公平です。(フルタイム)正職員の月給が適正な額であるならば、短時間正職員にはその勤務時間に比例した月額の設定が適切でしょう。例えば1日8時間勤務で月給30万円の組織である場合、1日4時間の勤務では15万円です。賞与や退職金も、同様の方法で設定できます。

 ただし、この方法で設計できるのは、(フルタイム)正職員と短時間正職員が全く同じ仕事をしている場合に限られます。看護師の場合、一見すると同じ作業を行っていても、担っている責任の大きさが異なることがあります。「正職員だから」「パートだから」ということで求められる責任が違っている場合、単に時間比例で待遇を決めることは不適切でしょう。

 面倒でも、いったん職務内容を分解し、担当業務とその責任範囲を明らかにして、短時間正職員の待遇を決める必要があります。例えば、勤務時間が半分で担当業務が同じであっても、短時間正職員が土曜日に出勤できないということであれば、単純に待遇を半分にするのではなく、半分未満の評価にしなければ公平な制度とはいえません。

 責任範囲を明確にする作業は簡単ではありませんが、時間比例とするだけでは(フルタイム)正職員側に不満が生じてしまいます。「頑張っている職員を評価したい」という当初の目的を満たすためにも、この作業は不可欠です。また、導入後の昇給を検討する際にも責任範囲の明確化は必要です。

「今のままでいい」という意思も尊重
 制度が出来上がれば、次は職員に制度の説明をし、時給のパートから月給の短時間正職員への転換を図る段階へと移ります。今回のケースで院長は、当初、4人のパート職員全員を短時間正職員とし、各自のキャリアアップに努めてもらいたいと考えていたようですが、実際には「今のままでいい」というパートも存在しました。

 中には、金銭的待遇だけが「良い職場」の条件ではないと考える人もいます。重い責任と引き換えの賃金アップは求めない人に新制度を押し付け、退職されてしまっては元も子もありません。結果として、全員ではなく希望者だけ短時間正職員に移行してもらいました。

 このクリニックでは、短時間正職員制度の導入により、定型業務をこなすパート職員と、より強い意欲と責任感を求められる短時間正職員が明確に区分されることになりました。

 これまでは、意欲と能力を持っている人材でも、「パートだから」という理由で、責任の発生する仕事を頼みづらかったり、新しい仕事を覚えてもらうのを遠慮したりということがあったと院長は言います。彼女たちが短時間正職員に転換したことで、そういった不満が解消されたそうですから、このクリニックにおける短時間正職員制度の導入は成功を収めたといえるでしょう。

著者プロフィール
中宮伸二郎(社会保険労務士法人ユアサイド代表社員)●なかみや しんじろう氏。立教大法学部卒業後、社会保険労務士事務所勤務を経て2007年に社会保険労務士法人ユアサイドを設立。非正規雇用問題を得意とし、派遣元責任者講習の講師を務める。