そんなあるとき、スタッフの1人が、だんだんエスカレートしていく悪口と、それへの同調を求められることに耐え切れなくなり、「奥さんの悪口を聞かされるのが耐えられません」と言ってくるようになった。その話を聞かされる私の方だって耐えられません……。

 それでも、「その人たちも当院で働いてくれる貴重なスタッフだから」と、私も大人の対応をし続けていたが、「なぜこんな思いをしつつもお給料を彼女らに払わねばならないのか」と、歯ぎしりしながら給料計算をした。

 院長である夫は「一緒に診療に従事してくれるスタッフがいないと困る。スタッフ優先」という意識を変えない。いつしかスタッフ間でも「奥さんは下」の意識が働いてしまったようだ。だがこちらとしては、腹立たしさを表に出すわけにはいかない。夫もスタッフの味方になり、そのストレスからか、私はひどいアトピー性皮膚炎になってしまった。

 そのような中で、私の悪口を延々聞かされ、2人組の増長ぶりに辟易としていたスタッフが退職を申し出てきた。信頼し、手塩にかけて育ててきたスタッフに辞意を表明され、夫も「さすがにこれはまずい」と思ったようだ。

 そこから院内改革に着手。夫はまず、妻(私)に事務長の肩書を持たせ、院内で私を呼ぶときは「おい」から「事務長」へ。経営者・雇用者は院長であることを明確にし、ビジネスライクにすべきところはっきりさせるとともに、事務長は院長のサポート役でありベクトルも同じであることをにおわせていった。

今回の教訓

 夫の意識が変わり始めたころから、私もたとえ「共通の敵」に仕立てられても、いちいち気にしないようになってきた。「事務長の悪口で盛り上がっています」とスタッフが言ってきても、「あら、図星! さすが! あっはっは」と笑い飛ばすくらいたくましくなっていった。

 共通の敵に仕立てた相手が動じず、気にしなくなれば、「いじめがい」がなくなるのだろうか。それどころか、自分たちの立場が危うくなるということも察知し始めたらしく、2人組は今度は不気味なほどにえらく私を持ち上げる態度に。しかしそこにも乗らず、動じない姿勢を貫いた。

 さらに、院長や事務長である私が、スタッフ一人ひとりとしっかりした信頼関係を築き上げていくことに着手していった。長所を認め、注意すべき時は言い方を考えつつもビジネスライクに伝え、フォローも忘れない。存在が雇用者に認められ、やりがいを感じられる職場になれば、人は横との比較にとらわれなくなる。

 こうして当院は、「共通の敵を作らないと団結できない職場」から「一人ひとりの長所を認め合う職場」へと徐々に変化していくことになった。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
天尾仰子(ペンネーム)●日経ヘルスケア、日経メディカル Onlineの連載コラム「はりきり院長夫人の“七転び八起き”」著者。開業18年目の無床診療所で事務長として運営管理に携わり、医院の活性化に日々努めている。