トラブルの経緯

イラスト:畠中美幸

 当院は院長以外は女性ばかりの職場だが、開業当時、経営者としての自覚もないままスタッフを雇用してしまったため、スタッフがやりたい放題になるという失敗をしてしまった。

 小規模の女性の職場であった当院では、あの人より上か下かという「ポジショニング」を巡る諍いや仲間外れ、イジメなど、幼稚園児ではないかと思えるような出来事が次から次へと起きたのである。

 ところで、日ごろ、うわべだけの付き合いだったり脆い人間関係の中で、お互いが急速に仲良く団結できる方法は何かをご存じだろうか。

 それは「共通の敵を作る」こと。「誰かの悪口で盛り上がる」ということを大なり小なり経験したことのある人は少なくないと思う。当院でも、スタッフ同士が共通の敵を作ることで急速に団結した。

次々に辞めていく新人たち
 ある時、看護師の一人が、新人に関する不満をたびたび訴えるようになった。特に、自分より年下の看護師が入職してくると、仕事がいかにできないか、そのため自分たちがどれほど苦労させられているかということを私に言ってくるのだ。

 先に入職し、経験も豊富な彼女がそう言うのなら真実なのだろうと、信じ込んでしまったのは大きな失敗だった。「あのスタッフとは一緒に働けません」と言ってくるベテランと、すっかり小さくなっていく新人。やがて新人は居づらくなり、自ら退職していく——。そんなことが何度か繰り返された。

 さすがにこうも次々に辞められると、新規採用をためらってしまう。「使えないスタッフが入るくらいなら、自分たちが頑張ります」という言葉を鵜呑みにし、採用を当面行わないことにした。職場内は人手不足だが活気に満ち、スタッフ同士もスムーズな関係になっていくはず……と思っていた。

「こんなものいらないから…」
 確かに和気あいあいの雰囲気は感じられるようになった。しかし、何かがおかしい。やがて分かってきたのは、もともと脆い人間関係で結び付いていたスタッフたちが、それまでは新人を「共通の敵」に仕立てており、新人がいなくなった今、今度は私を標的にし始めたということだ。その中心は、例の看護師とパート事務職員の2人だった。

 休憩室からは、私の化粧や一挙一動を嘲笑うような会話が漏れ聞こえるようになった。

 ある年、開院○周年を記念した小さなポーチを用意し、お礼の気持ちを込めてスタッフ全員に渡したことがある。「ありがとうございます!」と満面の笑みで受け取った後、休憩室から聞こえてきたのは「こんなものいらないから金よこせ」の言葉であった。