イラスト:ソリマチアキラ

 薬局を始めて17年、様々な苦難があった。

 資金繰りがうまくいかず社員にボーナスが払えるかヒヤヒヤしたことも少なからずあるし、自分の給与を2年間ゼロにしたこともある。

 MRだったボクは経営や労務、財務などの知識はゼロだったから経営の勉強もしたし、厚生行政に関するセミナーにも積極的に参加した。薬剤師ではない負い目もあり、社員と一緒に製薬企業の勉強会に出席し、薬のことも必死に勉強した。

 とにかく売り上げを伸ばせば何とかなったから、コツコツと薬局を増やしてきた。その甲斐あって、小さいながらも土地付きの家を買い、息子を大学に行かせることができた。時々おいしいものを食べる“プチ贅沢”もできるようになった。

 それが最近、急に雲行きが怪しくなってきた。気付いたら「薬局はコストに見合った働きをしていない」と批判されるようになり、調剤報酬が根本から見直されようとしている。

 過去にも分業バッシングはあったが、それとは比べものにならない。医師会とのパイの取り合いだけならまだしも、財務省が目を付けているというから厄介だ。来春の調剤報酬改定が相当厳しくなるのは明らかだ。

 その上、かかりつけ薬局が認定制になるという話もある。だけど一体、ボクたちはどうしたらよいのか。だって、地域の健康ステーションになろうなんて、もう10年以上も前から言い続けている。

 処方箋を持たない地域の人たちにも利用してもらいたいと、あの手この手を尽くしてきたし、健康フェアでの血糖測定なんて何年も前からやっている。マンツーマンはけしからんと言われるから、面で処方箋を受けるべく、患者サービスの向上に一生懸命取り組んできたのだ。

 やれ、特別指導加算だ、ハイリスク薬加算だと言われれば、そのたびにみんなで勉強して服薬指導の強化に努めた。「これからは在宅だ」と言うから、早々に無菌調剤室を作って在宅にも力を入れてきた。今では、ボクの会社の薬剤師たちは在宅医療チームの一員として認知されるようになっている。

 こんな風に“お上”の意向に逆らうことなく、まさに二宮金次郎のように、「調剤」を背負って一歩一歩、階段を登ってきた。なぜならば、その山の頂きには極楽浄土が広がっていると信じていたから。

 企業規模を大きくすれば経営が楽になるに違いない、薬剤師のレベルや患者サービスの質を高めれば患者さんが選んでくれるに違いない、そう思って一段ずつ登ってきたのだ。それなのに……。

 最近、薬局経営者の間で話題の敷地内薬局。ボクだって、だてに薬局経営をしてきたわけじゃない。営業力を駆使すれば、病院の敷地内に薬局を作ることも可能だろう。しかし、敷地内薬局は調剤基本料をかなり抑えられることが目に見えている。応需処方箋枚数は多く、売り上げは大きくなるが利益が全く出ない薬局になりかねない。やれ服薬指導だ、在宅だと苦労を掛けてきた社員に、やっぱり処方箋枚数をこなせというのは忍びない。かといって、敷地内に他社が出店すれば、門前にあるうちの薬局の処方箋が激減するのは目に見えている。そう、行くも地獄、戻るも地獄なのだ。

 こんなに苦労するぐらいなら、メガチェーンに買い取ってもらった方が、社員もボクも幸せになれるのではないかとフト思い、調べてみたら……。な、なんと、いつの間にか薬局の買い取り相場が暴落しているではないか。

 実際には売らないまでも、最後の切り札として心の支えだったのに。あぁ、昨今の社長は本当にツラ過ぎる。(長作屋)