開業してから年数を重ねると、診療所にも一定の「色(カラー)」が出てくるもの。標榜する診療科や患者層、院内施設や院長の人柄にも影響されるが、多くは職員の持つ雰囲気が要因になっている。明るさや温かさ、落ち着いた雰囲気を長所としてアピールする診療所は多く、こうしたイメージに好印象を持つ患者は、長く通い続けてくれることになる。
しかし、時間をかけて作られてきた診療所の「色」、つまり雰囲気やイメージが変化することがある。問題になるのは、その変化によって、自院に対する職員の想いや関係にマイナスの影響を及ぼすケースである。
消化器内科を標榜するA医院(無床)は、市街地からやや離れた住宅街に立地する戸建て(自宅隣接)の診療所であり、院長と看護職員3人(うちパート職員2人)、事務・受付職員2人で診療に当たっている。
開業して10年以上を経過して経営は安定しつつあり、地域にも根付いたことで近隣からの来院患者が多く訪れる。職員も長く在職していてお互いに顔見知りになっており、待合室は和やかな雰囲気が日常となっていた。
そうした中で、長く勤務した事務職員の1人が家庭都合で退職することとなった。後任として採用した職員Bは年齢も若く、面接でも明るく積極的な性格がうかがえたため、院長も期待していたのだが、思わぬところで、その積極性がトラブルを引き起こす結果となってしまったのである。
「皆さんはやる気がないみたいなので…」
Bは、入職後しばらくは持ち前の明るさと若さを発揮して日常業務に取り組んでおり、周囲の職員も好意的に見ていたようだったが、ある日唐突に「院内のレイアウトを少し変えてはどうでしょうか」という提案をしてきた。院長は驚くとともに、今の状況に特段の解決すべき問題もないと感じており、Bに理由を尋ねたところ、「私は、職場を良くしたいと思っています!」という答えが返ってきた。
具体的にどうしたいのかを詳しく聞こうとすると、「良くするためには何でもやります。でも皆さんはやる気がないみたいなので、私が頑張るつもりです」と答える。取りあえず意欲や向上心があるのは良いことだと思い、院長は「良いアイデアが浮かんだら報告してほしい」と伝え、様子を見ることにした。
それから2カ月余りがたったころ、古参の看護職員と事務職員が揃って院長の元を訪れ、「Bさんを何とかしてもらえないか」と相談してきた。聞けば、Bはたびたび「○○をこう変えたらどうか」「新しく△△を買い替えるといいと思う」などの提案をしており、その都度「業務も多忙であるし、今度みんなで相談しよう」と伝えても、「皆さんはやりたくないようなので、私だけで頑張りますから」と繰り返すばかりで、次第に周囲から浮いてきたという。
ベテラン職員らはひどく腹を立てている様子で、自分たちのペースや和も乱されているし、Bとの必要な打ち合わせや伝達もぎこちなくなり、会話そのものが減ってしまっていたようだ。