今回の教訓

 職員を新たに迎えるに当たっては、期待通りの働きをしてくれるかという点に加え、実は周囲とうまくやってくれるかどうかを不安に思っている院長が多い。特に、開業当時から働いていたベテラン職員たちの中に、年代が若い職員を1人だけ採用した場合には、いわゆるジェネレーションギャップを含め、コミュニケーションの取り方において問題が生じていないかどうか注意しておく必要がある。

 今回の事例は、意欲を持って入職した新人が周囲の気持ちに気付けないまま空回りし、先輩職員から疎まれてしまったというケースである。組織に長い間所属していることで保守的な傾向が強まり、自分(たち)の知らないことや変化に対する抵抗感を持ってしまう状況は、よく見られるもの。また、新入職員の方も、自分の希望を受け入れてもらうために必要なコミュニケーションを十分に取っていなかった。

 しかし、本事例の院長はあえてこうした点には触れず、Bに対して周囲をよく見ること、協力を求めることを説いて、1人でなく全員で業務改善を実践できる組織への着地点を探した。先輩職員にはBの積極性について理解を求めたが、いずれか一方をたしなめるだけの面談であれば、とがめられた方のスタッフは、院長がもう一方のスタッフの味方だと思ってしまい、溝を深める可能性もあった。

 職員間のトラブルは、感情的な要素が加わると関係悪化に拍車をかけてしまうので、院長が仲介役になる場合には、この点に留意して自身が組織の管理者であり、リーダーとして推進していくことを双方に納得してもらえる説明を行う必要がある。さらに、自身の信念を貫くことを強調するばかりでなく、日常から職員の意見や要望に耳を傾けられる柔軟性も備えておきたい。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
齊藤規子(株式会社吉岡経営センター)●さいとう のりこ氏。北海道大学大学院法学研究科修士課程修了後、法律事務所勤務を経て(株)吉岡経営センター(札幌市中央区)入社。人事労務、組織管理、経営改善など医療機関を中心に経営コンサルティングを手掛けている。認定登録医業経営コンサルタント。