イラスト:ソリマチアキラ

 細々と取り組んできた在宅事業だが、そろそろ本腰を入れようと考えている。まずは全店に在宅リーダーを配置し、そのリーダーを中心に各店舗で取り組んでもらう計画だ。

 そのためには人員を増やす必要があり、来春入社の新卒者をたくさん採らなければならない。

 新人社員は初年度の夏のボーナスを出さなくて済むから、主力店舗にそれぞれ1人ずつ配置しても、初年度の人件費のアップは何とかなるはず。来年度中に在宅の体制を整えれば、翌年の給与アップ分は回収できるとソロバンをはじいた。

 目標は20人の新卒内定者を確保すること。なぜ20人かというと、今年の手痛い経験があるからだ。そう、9人の内定者のうち薬剤師国家試験に合格したのがたった2人という悲しい結末。決して同じ轍を踏んではならない。20人いれば合格率が60%でも12人、70%なら14人を確保できるはず。この計算を確実にするためには、その20人は合格率がある程度保証された薬学部・薬科大学の学生でなければならない。

 中小チェーンにとって、優秀な薬学生20人の内定者を確保するということは、かなり高いハードルだ。覚悟してかからねば ! と思っていたら、なんと、7月の段階で既に20人の内定者を確保でき、8月末で採用活動を終えようとしている。

 昨年までとの違いは何か。うちのような中小チェーンが早々に20人の優秀な薬学生に内定を出せた訳とは……?

 薬学生にしてみれば、どの会社に入社しても、薬局で仕事をする以上、仕事の内容に大きな差はない。「ならば安定した大手に」と思うのが人情だ。あえて大手ではなく、うちを選んでもらうには、大手にはない特長を訴える必要がある。これまでも色々と考えてきたが、今年の作戦は、その名も「ファーマローテ研修大作戦」だ。

 イマドキの研修医はスーパーローテートと称して、内科、救急、地域医療の必修科目と、外科、麻酔科、小児科、産婦人科、精神科のうちから複数科目を選択し、各科を一定期間ずつ回って研修を行う。専門を決めるのはスーパーローテートが終了した後だという。ボクがMRをやっていた頃は、こんな制度はなかったが、この話を聞いた時に、そういう研修は魅力的なんだろうなと感じた。だって、何事も経験してみなければ分からないのだから。

 このスーパーローテートをヒントに編み出したのがファーマローテ研修というわけだ。入社してすぐに配属を決めずに、各科の門前の薬局を一定期間ごとに回り、その後で配属を決めるという制度だ。

 幸いなことに、うちの薬局は専門クリニックの門前が多い。糖尿病内科、循環器科、皮膚科、小児科、精神科など様々だ。総合病院の門前を中心に店舗展開する大手企業と大きく違う。

 この研修を打ち出したところ、N調剤やAファーマシーズといった大手チェーンから内定をもらったけれど、うちの薬局に来たいという学生が続出した。ボクが面接した30人程度の薬学生に志望理由を聞くと、全員が全員、「御社の新人研修に魅力を感じて……」と目を輝かせて話した。この言葉にボクはニンマリ。

 しかし、この研修、学生には人気だが、現場の薬剤師にとっては慣れない新人が次から次へと来ることになり、かなりの負担を強いることになる。でも新卒採用がうまくいけば、来年の秋にはみんなが楽になる。大変だが、頑張ってくれ ! 社長が知恵を絞って編み出した奇策なのだから。(長作屋)


(『日経ドラッグインフォメーション』2015年9月号より転載)