このほか、面接の際に「夫のDVから逃げている。生活をしなければならないので働かせてほしい」と言ってきた人もいた。しばらく事情を話されたが「力になりたいのはやまやまだが、診療所は不特定多数の患者さんが来院する。『逃げている』状況であればあなたの身が危険すぎる。人に会わずに済む内勤などのお仕事を探されてはどうか」とお話しし、お断りした。真実は謎のままである。

今回の教訓

 私たち夫婦は、良い言い方をすれば「情にもろい」と言えるのかもしれないが、ビジネスライクに割り切れず、情にほだされ損をしたりすることも少なくないというのが、経験から学んだことだ。

 また、個人のワケありの人生相談を面接で聞くというのは忍耐力も必要だ。そうした話を遮らずに聞き続け、面接の後に夫も私もぐったりすることが多くなった。

 とはいえ、のどから手が出るほどの忙しさの急募の時には、どんな方でも採用してしまいたくなる。「果たして大丈夫だろうか」というような方を期間限定で採用したこともあったが、大方、ストレスが増えるばかりで 助かったと思うことは少なかった。急募の際に採用のハードルを下げるのはリスクが大きいということも学んだ。

 ところで、前述の「義父母に追われて」と訴えていたスタッフは、当院を退職後、同じ手口でまた医療機関に採用されたと聞いた。ついでに、当院の内部事情に関して悪口を言いふらしていることも判明。「恩を仇で…」とまでは言いたくないが、何ともやるせない思いが残る出来事だった。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
天尾仰子(ペンネーム)●日経ヘルスケア、日経メディカル Onlineの連載コラム「はりきり院長夫人の“七転び八起き”」著者。開業18年目の無床診療所で事務長として運営管理に携わり、医院の活性化に日々努めている。