トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 夫も私も、開業して初めて「人を雇う側」となり、当初、求人に対して応募してくれた方には全員と面接をした。それが応募してくださった方に対する「礼儀」ではないかと考えていたからである。

 しかし、回を重ね、履歴書の印象によって、「この方はあえて面接しなくてもよいのでは」というのが何となく分かるようになった。

 まず、履歴書の使い回し、修正液で記入日を消して書き直したもの、目立つシミがついているものなどは、「本気度」が低いと思わざるを得ないので“一発退場”。さらに、写真が履歴書にふさわしくない、字が汚いなどもNGにした。そういった履歴書を送ってきた方には、今のようにメールが普及していない時代、「お祈りメール」ならぬ「お祈り文書」で、今後のご活躍をお祈り申し上げます、とお断りを入れた。

 そうした明らかな問題点がない場合は、「履歴書だけでは人を判断できない」ということで、院長と私で面接をしたのだが、私たち夫婦には大きな欠点があることが判明した。それは「会ってしまうと情が移る」「断れなくなってしまう」という致命的欠陥だった。特に夫(院長)は、訪問販売にもドアを開け、断れなくなってしまうタイプであり、スタッフ採用にはそれがマイナスに働いてしまった。

まるで昼メロのような展開に
 当院のような小さな田舎の診療所では、当時、しばしば「ワケあり」の家庭環境の方が応募してくることがあった。

 そんな事情を語られると、つい「何とか力になれないだろうか」と思ってしまった。もちろん、そうした環境の中でも良い働きをしてくれるスタッフもいたが、「ワケあり」な働き方をするスタッフも少なくはなかった。

 ある時、「義父母の借金の肩代わりをさせられそうで、夫と子どもと別のアパートを借りて住むため、何とかしてその資金を貯めたい」と言って義父母の仕打ちのひどさを切々と訴えた応募者がいた。のどから手が出るほどスタッフが欲しかった時期でもあり、採用。しかし、数カ月たったある日、突然無断欠勤をした。

 連絡も取れずに困っていたら「義父母が追いかけてきて逃げているので出勤できないんです!」と電話があった。「大丈夫なの? しっかりしてね!」と、まるで昼メロのような状況に本気で心配したのだが、その後も無断欠勤を繰り返し、ほどなくして辞めていった。

 後日分かったことだが、どうやら「義父母の〜」は常套手段のようで、同じような手口で同情を誘って採用してもらい、すぐに飽きて退職。診療所を転々としていたようだ。