イラスト:ソリマチアキラ

 薬局経営者仲間のYは、ボクと同じく製薬会社の元MR。

 会社を辞めて、MR時代に築いた医師との人脈を頼りに外資系保険会社に勤めていたが、2年ほど前に薬局を始めた。どうやら保険の顧客であるクリニックの院長が、「処方箋をそっちの薬局に持って行くように患者に言ってやる」と言ったらしい。

 そんなできもしない口車に乗せられて、Yはあっという間に3軒の薬局を作った。いずれも既に薬局があるクリニックの後発門前薬局だ。

 クリニックの門前に薬局を出す際は、診療科、院長の年齢や人となりを慎重に検討しないと、後々大変な目に遭うことが多いのに、Yは「だいたい薬局の利益構造は分かったから、大丈夫」と自信満々。そもそも既に薬局があるなんて、ボクなら絶対に手を出さない。たとえ今ある薬局よりもクリニックの玄関に近い立地だとしても、出店は道義に反する!

 しかもYは、薬剤師を育てる気もなく、人材紹介会社を使って薬剤師を集めていた。基本的にMRは医師の世界は多少知っているが、薬剤師のことはちっとも分かっていない。医師は、どんなに“ダメ医者”であっても、医師として全く働いたことがない人はまずいない。

 しかし薬剤師は優秀か否かに関わらず、調剤経験がない人が少なくない。実際、Yの薬局には、長年ドラッグストアに勤めてOTC薬販売が中心だった薬剤師や、研究職だったという薬剤師、製薬会社で広報担当者だった薬剤師までいる。

 それでも何とかごまかしつつ、4軒目の後発門前薬局を作った。もともとある薬局の建物が古びているので、きれいで新しい薬局を作れば患者はこっちに来ると考えたようだ。近隣に競合薬局がある場合には、調剤技術の優劣が大きくものをいうこともYは理解していない。

 そして「薬剤師はとびきりのを雇った」という。聞けば、国立K大学大学院博士課程を修了し、製薬会社の研究職を経て開発責任者を務め、定年を迎えた“ブランド薬剤師”Sだった。

 ボクの悪い予感は的中した。薬局はもとより小さな会社で働いたことがないSは、調剤はもちろん雑務も全くできない。しかもプライドが高く、患者の気持ちを察することができず、ささいなことで患者とトラブルを起こす。オープンして半年だが、既に何度か患者からクレームがあり、そのたびにYが“出動”して火を消したという。さらに、1日の応需処方箋枚数が30枚に満たないのに、2500万円分の在庫を勝手に発注していた。

 さすがにまずいと思ったYは、Sに懇々と説教をした。するとSは吐き捨てるように、「あなたのような人に怒られるようでは、私の経歴に傷が付く !」と言い放った。

 翌朝、電話で「今日は休む」と言われたY。その日は薬局を閉めざるを得ないと思い、クリニックの院長に謝りに行った。院長は特に気にする様子もなく、ホッとして薬局に寄ったYは思わず目を疑った。薬局のシャッターに「薬剤師が体調不良のため、当分の間お休みします」と書かれた紙が貼られていたのだ。

 Yはボクに「薬剤師を貸してもらえないか」と懇願してきた。かわいそうだが、急に言われても無理だ。

 代わりにボクは、今のうちに在庫の棚卸しをして、開封していないものは今すぐ返品するようアドバイスした。するとYは驚いたように「そんなこと、できるんか?」と聞いてきた。そんなことも知らずに薬局を経営していたのか。

 レベルが低過ぎる。皆が生き残りを懸けて「健康サポート薬局」になるにはどうしたらいいのかと必死に情報集めをしている時に、アホちゃうか!!(長作屋)