「自分の理念や方針を実現させるためにも、そろそろ自院のレベルアップを図りたい」。経営が安定すると、院長はそう考え始めるもの。
優秀なリーダー的存在の職員がいると、周囲に指導しながら全体のレベルも上がるのではないかと期待し、新たな人材を探すケースもよく聞かれるが、周囲とのバランスやスタッフたちの想いを把握できなければ、うまくいかないばかりか職員間のトラブルを招く可能性もある。
市街地のメディカルビルに入居しているX皮膚科クリニックは、院長と看護職員5人(うちパート職員2人)、事務・受付職員3人で診療を行っており、近隣の企業などに勤務する患者が数多く受診する診療所である。開業して8年目を迎えたころ、当初から勤務していた事務職員が退職することとなり、新たに採用したのが職員Aだった。
何かと目をかけていたが…
Aは30歳代半ばの女性で、院長は長く勤務してくれると期待していた。実際に仕事に就いてもらうと、処理が早くて正確なだけでなく、業務全体の進め方にも合理性が感じられて、想像以上に優秀な人材であることが分かった。院長は良い職員を採用できたことに大いに満足し、これを機に自院全体のレベルアップを図ろうと考えていたのだが、Aの扱いをめぐって職員から不満の声が出るようになった。
優秀なAは専門知識も豊富だったため、他の職員からの質問や相談に応じることも多く、院長は将来的にはリーダー的役割を担ってくれるのではないかと期待し、何かと目をかけていたのだが、それが思わぬ形で反発を招く結果となった。
このクリニックは、オフィス街で診療する皮膚科であることから、午前診療が終わる間際と18時以降の外来受診患者数が突出して多くなっている。そのため、混雑する時間帯の業務は非常に繁忙である一方、午後診療が始まって1時間余り経過すると、院内が落ち着くのが日常だった。
こうした時間は日によって長短があるが、夕方以降の繁忙時間帯を迎えるまでは、事務処理が長引いて昼休憩が十分に取れなかった職員が一息つくこともできるため、院長としても、この時間の使い方については比較的大目に見てきた。
「他の人が参加しても活用できないのでは」
そうした中で、ある日Aは「院外で開催される研修会に参加させてほしい」と申し出てきた。Aは業務のレベルアップに有効なものだと説明し、確かに院長も納得できるものだったので、午後の診療時間中ではあったが業務として参加を認め、Aからは後日内容についての報告を受けた。
翌月、Aは別の研修会への参加を上申してきたのだが、頻度が多すぎると考えた院長は、他の職員を参加させたらどうかと提案した。しかしAは、「他の人が参加しても、結局あまり活用できないのでは」と主張。Aの実力を評価し、いずれはリーダーに育てたいと考えていた院長は、不承不承参加を認める形となった。