それから数回にわたって、Aは院外で開催される研修会に参加していたが、次第に他の職員たちの中に「なぜAさんだけが?」という雰囲気が感じられるようになった。さらに、気づくと午後診療が始まる時間には既に外出していたり、夕方の繁忙時間帯までに戻ってこないこともあった。
院長はAに対して、「業務に影響を及ぼすのであれば、今後研修会の参加は認めない」旨を伝えた。その上で、本人の態度を注意するとともに、研修の時間帯をカバーしてくれている同僚への感謝の気持ちを持つよう指導したのだが、Aの言い分は「でも、他の人が参加するよりも役に立つと思うし、時間がかかるのは会場が遠いせいもあるから」と譲らなかった。
そして、ついに他の職員から、「Aさんだけを特別扱いしているのはなぜか?」というクレームが院長に届く。院長としてはAだけを特別扱いしていたつもりはなかったため、そのような印象を与えていたことに驚き、Aに対して再度行動を改めるように注意することを約束し、対応策を検討することとした。
まずは院内の信頼関係を重視
今回のケースは、院長が前例のなかったAの希望を受け入れたことがきっかけとなって、徐々に周囲の職員がAの振る舞いに不満を抱くようになったことが背景にある。院長としては、Aの能力に期待し、目をかけていたことは事実であるし、その分他の職員よりもAの要望に対しては大目に見ていたかもしれないことを反省した。
開院以来、クリニックのために努力してくれている他の職員に不快な思いをさせるのも心苦しく、不本意なことであった。院長は、まずAと話をしてみることとした。
Aに対しては、日ごろの業務状況を確認し、その内容は院長自身が評価していることを伝えた後、研修会参加をめぐる周囲の反応についてどのように感じているかを尋ねてみた。「あまり良く思われていないことは分かっているが、仕方がないと思う」という答えだったため、重ねて「みんなで相談して、順番に参加する方がよいのではないか」と提案してみたが、「他の人が参加しても意味がないのではないでしょうか?」と、これまで以上に強い言葉が返ってきた。
これを受けて院長は、忙しい時間帯が多い中、全員の協力でうまくやれていること、協力の基盤となるのはお互いの信頼関係であると考えていることなどを説明し、たとえ実力がある職員1人だけが頑張っても毎日の診療は回らないのだと強く伝えたのだった。さらに翌日、院長は朝礼時に職員全員に向けて「希望があれば休憩時間やシフトを調整するので、参加したい研修や勉強会があれば申し出るように」と話し、誰でも参加できる機会があり、業務時間についても配慮することを約束した。