おかげさまで、ここ数年、当社も新卒薬剤師を含めて社員がどんどん増えている。

 当たり前だが、社員が増えれば、様々な人生のイベントに同席することになる。例えば結婚適齢期の社員から「業務外のお話がありまして……」と電話をもらうと、「あぁ、アイツもそんな年になったか」と察するのである。

 実は昨日もそうだった。電話でアポイントを取って、落ち着かない様子で社長室を訪れた薬剤師K。何の話か察しはついていたのだが、知らぬ振りをして、言葉を待った。緊張した面持ちのKは、恐る恐る「実は、結婚することになりまして…」と切り出した。「やっぱり…」と心の中で思いつつも、ここは礼儀として驚いた振りをする。

 そして「それは、おめでとう!」と大げさに祝福の言葉を掛け、Kの次の言葉を待った。しかしKはなかなか言葉を切り出さない。ボクは沈黙に耐えられず、つい「結婚式はいつ? 仲人は立てるの?」と聞いてしまった。

 するとKは水を得た魚のように、「来春の予定です。で、仲人をぜひ社長にお願いしたいと思いまして…」と一気にまくし立てた。緊張から解き放たれた晴れやかな顔のKとは対照的に、ボクは暗たんたる気持ちになる。仲人か……。

 おめでたい席ではあるが、仲人であれ主賓であれ、結婚式における挨拶は、ボクのような社長にとっては戦いの場なのだ。主賓で呼ばれた場合には、決して相手側の主賓に負けてはならぬ。それが鉄則だ。まずは、席次表に書かれた職位の品定めを抜かりなく行い、先制攻撃をかける。必ずこちらから挨拶に伺い、名刺を渡す。できるだけ堂々と。

 着席した後に、相手が胸のポケットから原稿を出そうものならボクは密かにガッツポーズ、「勝った!」とほくそ笑む。仲人や主賓たるもの、原稿を読むなんてもっての外。目線を上げて会場の隅々まで視線を投げ掛けながら、堂々と立派な挨拶するのが社長の務めだ。それは決してボクの見栄のためではない。彼・彼女が、いかに立派で将来性のある会社に勤めているのかを、親族や来賓に伝えるためなのだ。彼・彼女やその両親が、肩身の狭い思いをしないように、というボクなりの“親心”なのである。

 とはいえ、年々、原稿を暗記するのが難しくなってきた。昔は前日の練習で大丈夫だったが、最近は結婚式の1週間以上前から、社長室でぶつぶつと人知れず練習するボクがいる。

 昔は社員も少なく、その社員がどのような人間なのか、どういう環境で育ってきたのか、薬剤師として日々どのように働いているかを、苦もなく把握していた。しかし、店舗が増えて社員も増えると、そうはいかない。あの手この手で情報をかき集め、それをつなぎ合わせて、いかに薬剤師として活躍しているか、ご両親がいかに立派にお育てになったかなどを、感情を込めて話さなければならない。

 特に仲人は、新婦を持ち上げ過ぎても、新郎を持ち上げ過ぎてもいけない。どちらかに偏ると、両家の間に上下関係が生まれ、それが一生の“火種”になりかねないからだ。薬剤師同士の結婚ならば話題は共通だが、全く接点のない業界だと、そちらの調べも必要だ。

 ココだけの話、仲人を務めるには結構お金も掛かる。御祝儀はよしとして、ボクのモーニングに妻の留め袖、帯、草履と一式借りて、さらに妻はやれ着付けだ、髪結いだと、エラく費用がかさむ。

 と、苦労ばかり書いてみたものの、結婚式に呼ばれるのは頼りにされている証しであり、うれしいものだ。さて今年は何人の寿に呼ばれるだろうか。(長作屋)