イラスト:ソリマチアキラ

 先日、ある調剤機器メーカーの創業者のお別れの会に参列した。会場での立ち話で、うちの薬局に最初に入れた分包機が、なんと、その会社の記念すべき第1号機だということを知った。どうやって入手したかはもう忘れたが、年代からすると、誰かから譲り受けたに違いない。

 ボクが作った最初の薬局は、内科クリニックの門前だった。当時は、本当にお金がなかったから、店舗入り口の自動ドアも、知人から安く譲ってもらった中古品。1度開くとなかなか閉まらず、冬はとにかく寒かった。それにトイレと休憩室はかなり狭く、休憩中も立って過ごすような状態だったから、当時のスタッフには随分、我慢を強いたように思う。

 ただし、待合にはこだわり、シンプルながらこぎれいな内装に仕上げた。看板もモスグリーンのシャレたものをあつらえた。プレハブ風の殺風景な薬局が多かった当時としては、それなりにイケてる薬局だったと自負している。

 調剤室の床はコンクリート打ちっ放しのモルタルに長尺シートを張っただけだったが、2人の薬剤師が調剤するには十分な広さを確保していたから、分包機などの機器類を入れても仕事はしやすかったと思う。

 この薬局は、今も変わらずそこにある。しかし、この17年で大きく環境は変わった。クリニックの院長は代替わりし、若先生は在宅にも取り組んでいる。当時の処方箋集中率は99%近く、ほぼ完全マンツーマンだったのだが、最近は面の処方箋が15%程度にまで増えてきた。

 面の処方箋が増えること自体は喜ばしいが、先日、社長室のパソコンでふと棚卸しのデータを見てぶったまげた。その薬局の採用品目数が、な、なんと1600品目にも膨れ上がっていたのだ。先代の院長は、薬局の在庫が増えないように、破棄する医薬品がないように配慮してくれたから、採用品目数は500品目程度だった。それが、1600品目とは……。

 慌てて薬局を見にいったら、調剤室がとんでもないことになっていた。かつて、ゆったりしていたはずの調剤室が、足の踏み場もない。ありとあらゆるスペースが、後発医薬品であふれ返っていた。整理整頓がされておらず、ざっと眺めただけでも使用期限切迫品がいっぱい目に付いた。驚くボクに向かって薬局長は、「期限が切れて破棄する薬が毎月、結構あるんですよね〜」とのんきに説明してくれた。いやいや、「あるんですよね〜」じゃなくて、破棄しなくて済むように手を打つのがキミの仕事だろ !

 ボクがこんなに焦ったのは、今年4月に大幅な薬価改定が控えているからだ。3月までの値段が、4月になったとたんに下がってしまう。昨今は薬価差が縮小している上、C型肝炎治療薬など尋常ならぬ価格の薬を在庫している。これまでの薬価改定のときは、卸に積極的に返品したり、無理に在庫を減らしたりすることはしなかったが、今度ばかりはそうせざるを得ない。棚卸しを徹底し、とにかく3月末に返品できるものは返品して、4月1日以降に新たな価格で購入しなければ、逆ザヤになってしまう。

 薬価改定に合わせてメーカーと卸の間で新たなルールができるという噂も聞く。3年連続の薬価改定となれば、メーカーが価格防衛に走るのは当然だ。でも、そうなれば薬局と卸との価格交渉が今まで以上に厳しくなり、わずかばかりの薬価差益がますます圧縮されるだろう。さらに未妥結減算も見え隠れする。もちろん調剤報酬改定も気になるが、調剤室にあふれる1600品目の価格交渉を思うと、今から頭が痛い。(長作屋)