illustration:ソリマチアキラ

 4月の調剤報酬改定を受けて様々な努力をしているが、どう考えても7000万円程度の減収になりそうだ。でも、泣き言をいっても始まらないし、薬剤師たちに「加算をもっと取れ」と発破を掛けるのには、もう飽きた。よしっ、業界全体が右往左往している間に、逆転満塁ホームランを打ってやる ! そう思って、今まで一切無視していたM&A会社からの電話に出て、「いい物件があれば紹介してよ」と言ってみた。すると、その日のうちに営業マンが4つの案件を携えてすっ飛んできた。

 1軒は大阪環状線から数駅離れた大病院の門前に数年前にできた後発薬局で、月商1000万円弱。一昔前なら飛びついただろう。だがこのご時世、集中率が高い薬局を買う気はない。もう1軒は医院の門前薬局で、面の処方箋も少しは取れそうだが、院長先生があまりにもくたびれた感じ。

 3軒目はどうも近隣薬局とトラぶっている様子で、ボクのポリシーに合いそうにない。そして最後の1軒は大阪市南部、ボクのなじみのない商店街にあった。何となく興味をそそられて見に行くことにした。

 駅を降りてびっくりしたのが、商店街の規模。駅を中心として縦横無尽に道が走り、商店が立ち並ぶ。5軒に1軒くらいはシャッターが閉まっていたが、驚くほど人の往来がある。ふらふらと自転車を漕ぐ人、昼間だというのに串カツ屋で酒を飲んでいる輩もいた。そして圧倒的に多いのはシルバーカーを押したり、つえを突いて歩く高齢者だ。

 商店街には小さな診療所も何軒かあった。なんて街なんだ ! ここなら国が求める「街中かかりつけ薬局」がつくれる。ボクはうれしくなって、その薬局に急いだ。

 期待は、薬局を目にして急激にしぼんだ。ショ、ショボ過ぎる……。12坪程度のふる〜い薬局だった。OTC薬を置く昔ながらの薬局というわけではなく、1970年代から処方箋を応需し始め、そのまま時が止まったような薬局だった。繁盛しているとまではいえないが、患者は途切れることなく入っていく。高齢の女性薬剤師が一人で対応していたが、どの患者とも顔見知りらしく、一人ひとりと話し込んでいた。

 この薬局に、ちょっと対人能力に長けた薬剤師を置けば、この巨大な商店街を歩いている住人をまるごとゲットできるかもしれない。だが、このショボい風采のままでは、ボクのプライドが許さない。ふと、薬局の隣を見ると、シャッターを閉じた電器店があった。地上げをして2軒分の土地があれば、立派な薬局が建ちそうだ。ただ、そこまで大きな投資をするつもりはなかった。新規出店となれば、1年間は低い調剤基本料で運営することになるし……。

 そんなこんなで今回は諦めたが、ボクがもし薬剤師でまだ30代なら、必ず挑戦しただろう。それくらい魅力的な商店街だった。

 ある時を境に、薬局は立地産業になってしまった。儲かりそうな土地の争奪戦では資本力がモノをいうから、個人で薬局を開局することが難しくなってしまった。

 しかし在宅が求められるようになり、そして今、かかりつけ薬剤師の時代が到来した。医療機関の門前で高い家賃を払わなくても、自分の“腕”で経営できる時代の再来だ。

 あの商店街の薬局のように、チェーンは手を出さないような物件の中に、可能性に満ちた薬局がたくさんあるはず。若き薬剤師よ、今こそ勝負の時である。(長作屋)