Illustration:ソリマチアキラ

 前回(こちら)、ある商店街の薬局を見に行ったが、あまりにもショボい風采にがっかりして買収を諦めたと書いた。しかし実は、今まで足を踏み入れたことのなかった巨大商店街にすっかり魅了されていた。

 日がたつにつれ、あの商店街だったら、うまくやれば面の処方箋だけで成り立つ薬局が必ずつくれる、という思いが強くなった。

 薬局譲渡の価格は一般に経常利益の3〜5年分程度とされている。調剤設備や薬代に、処方箋を引き継ぐための“営業権(のれん代)”の値段などが含まれている。1日何百枚と院外処方箋を出す病院の門前の一番良い場所にある薬局なら、その権利を買い取る費用も納得がいく。

 しかし、商店街に可能性を見いだしてしまったボクは、“営業権”を払うのが惜しくなった。そう、何もショボい薬局の“営業権”を買わなくったって、薬局はつくれるはず。なら、どこに薬局をつくるべきか──。ボクは、改めて商店街を探索してみることにした。

 面の処方箋で成り立つ薬局に最も必要なのは「人通り」、というのがボクの持論。駅と住宅街の間にあり、商店街の中でも、特に人が集まる店の近くがいい。では、特に人が集まる店とは、どんな店か?

 その答えはスーパーマーケットだ。昔ながらの商店街であっても、そこそこの数の住民がいれば、必ずスーパーが出店しているものだ。そしてスーパーには、ほぼ例外なく人が集まっている。つまり、自宅近くでなくともスーパーの近くであれば、その生活圏のかかりつけ薬局がつくれるというわけだ。

 スーパーはどこにあるのだろう。キョロキョロしながら歩くと、ネギの刺さったスーパーのレジ袋を持つオバチャンの姿が目に留まった。その人が来た方向へ歩いていくと、少しずつレジ袋を持つ人が増えていく。よし、いいぞ!

 スーパーを探しながらも、周りのウオッチも怠らない。まず内科クリニックを見つけた。こじんまりとしているが、比較的新しい、こぎれいなクリニックだ。その門前には、関西に複数店舗を持つチェーンの薬局があった。調剤室を併設したドラッグストアもあった。競合といえば競合だが、その2軒には絶対勝てる、と直感した。

 道行く人たちがみんなボクの薬局の患者さんに見えてきた。店先に座って店番をしているおばあさんだって、いずれ医療機関に通えなくなる日が来るかもしれない。店の2階の部屋には、寝たきりのおじいさんがいるかもしれない─、空想はどんどん広がった。ボクがつくる薬局は在宅に力を入れるから、家族みんな、面倒見るよ!

 そしてついにスーパーにたどり着いた。それほど大きなスーパーではないが、店の前には自転車がたくさん止まっていて、思った通りのにぎわいだ。商店街はその先50メートルほどで終わっており、住宅が立ち並んでいた。よしっ!

 しかも、スーパーの隣にはシャッターが閉まった店があり、「自転車を止めるな」の貼り紙の日付が昨年2月になっていた。つまり、1年以上閉めたままなのだろう。ここに新しい薬局をつくるべきか否か、ボクの新しい悩みが始まった。

 これまでボクは、条件の良い場所を押さえるという陣取り合戦に力を入れてきた。そのボクが、商店街のスーパーの前でニヤニヤする時代が来るなんて、誰が想像しただろう。それくらい時代は変化しているのである。(長作屋)