トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 スタッフが同じ職場に長く勤務していると、仕事の習熟度が高まる一方で、慣れから来る驕(おご)りが出てくることがある。それをどのように軌道修正していくかは、雇用者側にとっても大きな課題の1つといえる。

 今回紹介する看護師のA子は、情が篤く、仕事もてきぱきしていて、信頼できるスタッフの1人だった。患者への声掛けは優しく適切で、A子に担当してもらえば、対応が難しい患者も比較的スムーズに治療を済ませることができた。そのようなA子は、同僚からも信頼されていた。

 ところが、「私は同僚に評価されている」「院長や事務長にも信頼されている」「私抜きでは、この医院は成り立たない」という驕りが出てきたのだろうか、長年の勤務の結果、今ではすっかり同僚に煙たがられる存在となってしまった。

同僚の家庭の事情を聞き出し明かす
 まず、相手が踏み込んでほしくないと思うような部分まで入り込むようになった。

 スタッフの中には、家族に病人が出たり子どもの受験や進学がうまくいかなかったりと、家庭の問題を抱えてしまうケースも少なくない。そのような時、聞き上手なA子は心配してあれこれ話を聞いていたのだが、その話を「〇〇さんは××ということで、今大変なの。協力してあげて」などと他のスタッフに話してしまうことが相次いだ。

 同僚を気遣ったつもりだったのかもしれないが、家庭の事情を明かされた本人にしてみれば、たまったものではない。そもそもA子に話したかったわけではなく、聞かれたから話しただけなのに、まさか皆にばらされるとは思ってもみなかったわけだ。

 さらに、スタッフ同士のトラブルが発生すると、素早くキャッチして、逐一私に報告してくるようになった。これも、「頼られている私が何とかしなきゃ」という思いから出てきた行動に見えた。トラブルを報告してくれるのはありがたいが、ちょっとしたいざこざであれば、あえて介入して大ごとにしない方が、本人たちのためになることもある。

 A子の「情報収集」先は同僚以外にも及んだ。同じ開業医の奥様や、地元の名士と呼ばれる方が来院したときは、率先して検査や点滴の担当になり、ここぞとばかりにいろいろ情報を聞き出すようになったのだ。こちらとしては、患者さんに失礼があったらどうしようと気が気でない。私に対しても、子どものことなど家庭の問題が発生したときには、どこから情報を仕入れたのか、ズケズケと踏み込んで聞いてくるようになった。