だが、まず行うべきことは状況の正確な把握だろう。万が一ということも考えられるため、安否を含めて状況を確認しておきたいところである。

 通常、電話連絡だけで済ませてしまうケースが多いが、近隣から通勤しているのであれば、自宅で倒れていることはないのか、事件に巻き込まれていないかという点も確認しておきたい。そのような事態に直面していることは、通常であれば考え難いが、可能性はゼロではない上、万が一病気で倒れたりしているようであれば、訪問して確認してもらえるというのは本人や家族にとっての安心感にもつながる。

 もっとも、実際には単に出勤を拒否して連絡を無視していることが少なくないため、院長などが自宅のインターホンを鳴らしたとしても誰も出ないことになりがちだ。その場合には、「みんなが心配をしているため至急連絡が欲しい」旨のみならず、このまま連絡が取れない場合には、どのような手続きを進めるのか(例:自己の意思に基づく無断欠勤として扱い、○月○日付で退職手続きを行う等)という点も文書で残し、ポストなどに入れておくとよい。

 その際、あらかじめ就業規則において、無断欠勤の場合の退職手続きについて「無断欠勤によって連絡を取ることができず、14日を経過した場合には、無断欠勤日から14日を経過した日を退職日として取り扱い、退職手続きをする」などといった記載があれば、根拠が明確となるため、就業規則の該当部分をコピーして同封しておくと混乱は最小限になるであろう。

クリニック側からの明確な意思表示がないと…
 なお、仮に解雇などとして扱うのであれば、民法第97条(隔地者に対する意思表示)の定めにより、事業主から本人に解雇の意思が到達することによってその効力が発することになるため、何も連絡をしていない、あるいはクリニック側からの明確な意思表示がない状態では、解雇などの契約解除がそもそも有効となるか否かという問題が生じてしまう。この点は注意しておきたい。

 一方で、賃金の支払いの件については、本人の要求を無視し続けるということは、労働基準法第24条に違反する点に注意をしなければならない。同法第24条では、第1項において「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」、第2項では「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定めており、毎月一定の期日に支払うことが原則であるためだ。

 今回の事例のように金融機関の振込先が指定されているのであれば、振り込みをすることに本人が同意をしていることになる。そのため、指定された振込先に給与を支払っておかなければ、労働基準法違反となり、本人が労働基準監督署に駆け込んだりしたら間違いなく是正指導の対象となる。

 以上のように、連絡が取れなくなることで無断欠勤と判断し、それを理由に解雇してしまうことは手続き処理としては簡単だが、法律上の効力が生じる要件や賃金支払いに当たってのルールを押さえておかなければ、クリニック側が悪者になってしまいかねない。そもそも労働基準法という法律は、労働者を守るための法律であるため、やるべき対応は抜かりなく進めておきたいところである。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。