最初の戦いは1990年代。医薬分業が急速に進み、あれよあれよという間に病院前の土地が急騰し始め、第1次薬局戦争が勃発した。関東に比べれば関西は少し遅かったが、それでも90年代後半には、大学病院前の土地には坪5万円だの6万円だのという法外な金額が提示されていた。そう、この金額は売値ではなく、月の借地代なのだ。

 とんでもない賃料だったとしても、資金力があれば、一等地に薬局をつくれる。そこで処方箋を他より多く応需し、さらに資金力を高めて、別の一等地を押さえる──という好循環をつかんだのが、メガチェーンだ。こうして第1次薬局戦争は、資金力のある者が制した。当時、事業を始めたばかりのボクには、そんな資金力はなく(今もないけど……)、身の丈に合った商売をするしかなかった。

 しかし時は流れ、「在宅」という新たな市場が生まれた。在宅の処方箋を集める際、立地はそれほど重要ではない。必要なのは営業力であり、ボクの得意とするところだ。だってボクは、伝説のプロパーだったのだから……。当社の薬剤師もやりがいを感じて在宅に取り組んでくれている(と信じたい)。

 さすがに第1次戦争を勝ち抜いたメガ・大手チェーンにはかなわないが、他より早く在宅に取り組んできた当社は、調剤報酬が下がり続ける中でも業績を伸ばしてきた。現場の薬剤師たちが地域の医療・介護職から信頼される仕事をし続けてくれているおかげで、ありがたいことに「うちの施設もお願いしたい」という引き合いを多くいただく。第2次薬局戦争は在宅に本気で取り組んだ者が制しつつあり、我が社も何とか追従できている。しかし、しかし……。

 今、ボクは新たな戦場に立っている。薬剤師争奪戦という名の第3次薬局戦争だ。何度も書いているが、ボクは新人採用に涙ぐましい努力をしている。中途採用もパート採用も手を抜いてはいない。にもかかわらず、人が来ない。今ほど薬剤師がいない時代は経験したことがない。一体、薬剤師はどこへ行ってしまったのか……。そういえば、日経DIは、その昔、薬剤師過剰時代がやってくると何度も書いていた。あれは一体、何だったんだ!ボクは忘れていないぞ!!薬剤師が余るっていうあの記事を!!!

 ここ数年、大手チェーンも病院も、どこもかしこも薬剤師を採用するために戦っている。この戦いでは規模がモノをいう。規模が大きければ薬剤師が潤沢にいるから、休みが取りやすいなど労働条件の良い環境をつくることができる。条件が良ければ、さらに薬剤師が集まり、規模を拡大できる。

 ちまたでは敷地内(門内)薬局が話題になっているが、ボクのところにも、「あの病院の敷地内に薬局を出すんだろう?」と話が来る。もちろん、できることなら敷地内薬局をつくってみたい。病院と協力して薬局薬剤師のレジデント制度を実現させる夢もかなえられる。

 でも、今は無理だ。敷地内薬局にはそれなりに処方箋が集中する。仮に1日500枚、600枚の処方箋を獲得できるとして、当社にはそれに対応する人的余力がない。ボクは目の前に敷地内薬局ができていくのを、指をくわえて見ているしかない。第2次薬局戦争では、勝算があると感じていたが、第3次の戦いに勝つにはゲリラ攻撃しかないのかと思うと、本当にツラい。(長作屋)