Illustration:ソリマチアキラ

 うちの会社は3月決算なので、9月末で半期が終わる。あまり大きな声では言えないが、うちの会社はこのところ調子がいい。

 心配された調剤報酬改定の影響もなんのその。日計表を見ても月計表を見ても、ほぼ全店舗で売り上げが伸びている。今年の忘年会は大盤振る舞いしようかな、ボーナスも多めに出せるかも。だって、業界全体が厳しい中、うちの会社はこんなに売り上げが伸びているんだもの……。

 そんなことを思いながら、会計事務所から「貸借対照表(BS)」と「損益計算書(PL)」が届くのを楽しみに待っていた。BSとPLはいわば、社長の通信簿だ。社長は誰からも褒められないが、数字は嘘をつかないし、ボクを褒めてくれる。

 これほどまでに業績がいいのは、明らかに「在宅」のおかげだ。これもひとえにスタッフの頑張りのたまもの、ではある。しかし、数年前に「当社は在宅に力を入れる」と決断したのは、誰なのか。「ただでさえ忙しいのに、仕事を増やさないでほしい」という現場の声のみならず、「在宅は採算が合わない」という“外野”の声も多かった。四面楚歌の状況だったが、「外来処方箋は確実に減っていく。数年後には在宅をやっていて良かったと思う日が必ず来る」と皆を説得して、強硬に在宅を推進してきたのは、外ならぬこのボクなのだ(自慢!)。

 そして昨日、待ちに待った半期のBSとPLが会計事務所から届いた。

 ほくそ笑みながら目を通したボクは、驚きのあまり椅子からずり落ちそうになった。な、な、なんと、労働分配率が60%近くになっているではないか!長い間、52〜53%をキープしていたのに、どういうことなんだ!!

 考えてみれば、ここ数カ月、売上に目を奪われ、分析を怠っていた。慌てて日計表に目を通すと、処方箋枚数は伸びているものの、処方箋1枚当たりの平均単価が下がっていた。その原因は技術料の低下だ。

 事業経営の基本は単純で、考えるべき要素はたった4つでいい。すなわち、売り上げを伸ばすか、仕入れ価格を抑えるか、経費を抑えるか、付加価値を高めるか、の4つだ。薬局の場合、売り上げは処方箋枚数、仕入れ価格は医薬品卸との交渉で決まる。経費は家賃や人件費であり、変動の余地があるのは人件費。付加価値は、売り上げから原価を引いたもので、薬局の場合、薬価差も関係するが、技術料に拠るところが大きい。問題の労働分配率は、付加価値に対する人件費の割合だ。

 経営指標をよくよく見ると、人件費も高まっているものの、それほどではなく、むしろ技術料が下がったために結果として労働分配率が高まっていた。人を減らしたり給与を減らせば労働分配率は下がるが、それでは皆に申し訳ない。とすると、付加価値を上げるしかない。つまり、技術料のアップだ。

 早速、どの点数をどのくらい算定すれば順当な利益が出るか、鉛筆をなめながら試算してみた。やはり肝は、基準調剤加算と後発医薬品調剤体制加算だ。現在9店舗しか算定できていない基準調剤加算を18店舗へ、後発品の加算は全店舗へ。不可能な目標ではないはずだ。

 管理薬剤師たちに算定のための対策とタイムスケジュールを作らせなきゃ……。薬局も経営手腕が問われる時代になっていることをつくづく感じながら、もうひと踏ん張りせねばと思う社長であった。(長作屋)