Aクリニックは大都市圏に立地する内科の無床診療所だ。開業5年目を迎えて患者数も安定し、堅調な業績を維持している。
「B子のことで相談したいことがあるんですけど……」。ある日院長は、事務職員のC子から相談を受けた。B子は同クリニックの事務職員。同僚のC子がたまたま、自宅やクリニックから離れた場所にあるコンビニエンスストアを訪れたところ、そこでアルバイトをしているB子を見かけたというのだ。深夜の時間帯だった。
B子は特段疲れている風ではなく、仕事も変わらずこなしていたため院長は驚いたが、話を聞いているうちに次第に複雑な気持ちになった。「うちの賃金水準は決して低いわけではないのに、何が不満なんだ。そもそも、黙ってこそこそ副業をしているのが気に食わないし、これは解雇を含む懲戒処分に相当するのではないか」——。そう考えた院長はB子と面談し、C子から聞いたことは伏せた上で問いただすことにした。
面談の場でB子は、賃金に不満があるわけでも、お金に困っているわけでもないと言った。ただ、趣味活動に必要なお金の足しにしたいという理由で、アルバイトを始めたとのことだった。いざ始めたものの、やはり深夜の仕事は厳しく、ちょうど辞めようと思っていたところだという。
院長はB子の話を聞き、処分を下すのをやめた。ただ、今後も同様の事例が発生する可能性があるので、副業に関する院内ルールを作ろうと考えている。
B子のように、主たる勤務先がありながら別の時間帯に副業をする例は、医療・介護業界では少なくない。その多くは、主たる勤務先には内緒にして、こっそりと働いているケースだ。
内緒のアルバイトが明るみに出るのには、幾つかのパターンがある。B子の例のように、他の職員などが見聞きして経営者に伝えるというのがその1つ。また、毎年市役所などから事業所に送付される職員個人の住民税の納税通知書などで、前年よりも住民税が大幅に増えていることを雇用者側が疑問に感じ、通知書をよく見ると自院における所得金額をはるかに超える金額になっていて判明するパターンもある。