トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 A診療所で事務職員として勤務するB子。マイカー通勤をしており、先日、帰宅途中に自損事故を起こした。幸いにもケガはなかったが、院長が話を聞くと、任意保険に未加入だという。

 年齢が若いと事故率が高いということで任意保険の保険料も高額となってしまい、その金額ゆえに保険加入をためらう若者が多いとは聞いていたが、まさか自院にそうした職員がいるとは思いもしなかった。

 「そんなに遠出をするわけではないし、いつも安全運転をしていて、絶対に事故は起こさないという自信があったのですが……」。B子は気落ちした表情でそう語った。当日は、レセプト請求の業務でいつもより帰宅が遅くなってしまい、日頃からの疲労がたまっていたと考えられ、それが自損事故の原因になった可能性がある。

 今回は比較的軽微な自損事故だったが、任意保険に加入していない状況で仮に人身事故など大きな事故を起こせば、多額の費用負担を余儀なくされることになり、職員の人生設計にも大きな影響を与えかねない。それに、通勤時の事故だと、管理者である院長の責任が問われることにならないだろうか——。院長は、マイカー通勤管理の対策を特段行っていないことに不安を感じ始めた。

今回の教訓

 首都圏などの大都市部と異なり、地方の医療機関では職員がマイカーによって通勤をすることが一般的だ。家族と一緒に住んでいても、1人1台マイカーを有しているケースも多く、そうした足によって日々、通勤している。ところが、通勤途中の事故については、「自己責任だから」ということで何も管理をしない医療機関が少なくないのが現状である。

 だが、例えば職員が院長の指示によって帰宅途中にホームセンターに立ち寄り、業務で使用する物品を購入し、その後に人身事故を発生させたらどうなるのであろうか。

 この場合、民法第715条第1項に定める「使用者責任」が問われる可能性が高いことに注意をしなければならない。これは、被用者(職員)が業務執行中に第三者に損害を与えた場合には、使用者(勤務先)はその損害を賠償しなければならないというものだ。