職員が業務中に加害事故を発生させた場合には、「使用者責任」が適用され、いくら職員本人の事故とはいえ、被害者が勤務先に対して慰謝料など多額の賠償請求をしてくることがある。仮に職員の過失が1割程度のものであったとしても、被害者保護の観点から賠償金を支払うよう求めてくることもある。

 この使用者責任を免れるには、「被用者の監督等について相当な注意を払っていたこと」または「相当な注意を払っていたとしても損害が生じたであろうこと」を勤務先側が立証する必要があるが、現実的にこうしたことを立証することは非常に困難と考えなければならず、通勤に使用するマイカーの任意保険に未加入という状態は、極めて危険であるといわざるを得ない。

 また、自動車損害賠償保障法(自賠法)第3条では、自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)が、その自動車の運行によって人身事故を発生させた場合は、損害賠償の義務を負う旨を定めている。

 これは、民法上の使用者責任よりもかなり広い範囲で考えられており、「運行供用者」の認定基準に当たっては、「その運行を支配していたか否か」「その運行によって利益が帰属していたか否か」が判断材料とされる。過去の裁判例では、マイカー通勤者向けに駐車場を無償で貸与していた事業者が、マイカー通勤を奨励していたと判断され、「運行供用者」と認定されたケースもある。業務中の事故でなく、通常の通勤途中の事故であっても、勤務先側の責任が肯定され得ることに注意をしなければならない。

 勤務先がこの「運行供用者」責任を免れるためには、
(1)自己および運転者に自動車の運行に関して過失がなかったこと
(2)被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと
(3)自動車の構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと
を全て立証する必要があるが、これも先の使用者責任の問題と同様に、立証は極めて困難なものと考えなければならない。

 以上から、職員のマイカー通勤に際しては、入職時および年に1回程度は、運転免許証の写しや任意保険の加入状況が分かる資料等の写しの提出をぜひ求めていきたいところである。任意保険についても、対人・対物の賠償額が一定の金額以上の保障に加入することを義務付けて、その条件を満たした場合にマイカー通勤を許可するといったように、許可制によって運用することが望ましい。使用者責任や運行供用者責任のリスク回避の目的だけでなく、任意保険にきちんと加入してもらうことで自院の職員を損害賠償リスクから守るという労働者保護の観点からも、ぜひ検討しておきたいところだ。