トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 今回ご紹介するのは、西日本の都市部で内科系クリニックを開業したA医師のケースだ。

 開業前に事務職員の募集を検討していたところ、知人から実務経験者を紹介したいという申し出を受けた。開業予定地の近くに住んでいるのだという。オープニングスタッフの中に医療事務経験者がいると非常に助かる。A医師は早速会ってみることにした。

 紹介されたのは、医療事務経験4年(40歳代前半)のBさん。少し前に大きな病院で人材派遣によりクラークと受付を経験していて、その前はレセプト業務に従事していたこともある。医療事務の資格も持っているとのことだった。

 受付から請求までの業務を一通り経験しているという経歴を知り、院長は大変心強く感じた。診療所と病院では違う部分もあるが、開業当初は患者数も少ないだろうし、経験を積んでいけば問題ないだろうと考えた。

パート職員の方が経験、知識とも多く…
 院長がBさんを即戦力としてぜひ採用したいと紹介者に伝えたところ、月額給与を多めに設定してやってほしいと要望してきた。院長は、せっかくの推薦だし折り合いをつけて採用したいと考え、紹介者の要求額よりは低めにしたものの、地域の相場を上回る待遇で採用することにした。

 ところが、実際に採用してみると、院長にとっては誤算続きの展開となった。院長は開業2週間前からの勤務を希望していたが、直前になって本人の都合により勤務開始が1週間前になった。何とか休日も利用して電子カルテの研修を実施したが、インストラクターによると、Bさんは本人が院長に説明したほどの経験や知識がなく、むしろパート採用したCさんの方が経験も知識も多く、覚えも早いことが判明した。

 開業まで時間がなく、実力が伴わないようであれば補う方法を考えなければならない。そこで、パートのCさんにお願いし、当初1カ月は極力勤務数を増やしてもらうことになった。

何もしていないように見えることも
 開業後、BさんはパートのCさんを頼りに業務をこなしていた。受付や会計は率先して行うが、入力業務や患者の対応などはCさん任せで、ただ仕事を見ているだけで何もしていないように見えることもあった。院長からの指示にはすぐ返事をするが、Cさんに伝えるのみ。率先して業務を行ったり、できるだけ早く覚えようと努力しているふうには見えなかったという。

 このままでは心配なので、診療報酬請求コンサルタント会社のクリニック担当者にスキルを確認してもらったところ、請求事務に関する知識は未経験者に近い状態であることが分かった。何もしてないように見えるのは、知識が少ないため、業務をどのように進めていけばよいか分からないからであった。

 Bさんには給与に見合った知識や能力がなかったが、紹介してもらった手前、院長は何とか育てていくしかないと思った。Cさんの協力も得ながらBさんのスキル向上を目指したが、常勤者として実務を任せられるだけのスキルが身に付く気配が見られない。Bさんも居心地が悪くなったようで、結局、自らの意思で退職していった。