また、労働基準行政の動きについてはマスメディアによる報道の通りであるが、大手広告代理店の新人女性の過労自殺を契機に、長時間労働をなくしていこうということで労働基準監督署による調査や指導が積極的に行われている。経営者としては、残業代をきちんと払っているので問題ないであろうと高をくくっていても、最近は36(サブロク)協定といわれる時間外労働・休日労働に関する協定書に関して、締結状況のほか、周知、労働者代表の選任方法などの実態が協定書通りになっているかどうかを確認され、問題があるとして是正指導を受けるケースが少なくない。

 36協定とは、法定労働時間である1日8時間、1週40時間を超えて残業をしてもらう場合に、事前に一定期間内にどのくらいの残業を行うのかなどといったことを所定のフォーマットに具体的に記載し、管轄の労働基準監督署に届け出るものだ。未締結(未提出)であったり内容と実態に乖離が見られたりして、多くの医療機関に対し正しい運用を求める是正指導がなされており、今後も継続的に行われていくであろう。

各スタッフの仕事内容を書き出してみる
 以上のことから、診療所においても長時間労働対策は考えていかなければならなくなっているが、長時間労働につながる職員の業務の多くは、属人的になっていることが一般的であり、その業務の分散化は容易ではない。とはいえ、時代の趨勢として対策を講じていかなければならないが、そのためには、まず、どういった仕事でどのくらいの時間が要されているのかといった分析が不可欠である。

 これは特定の個人だけではなく、職場全体で行うことが業務全体を俯瞰する上では良いものと思われ、具体的には1日の仕事を可能な限り本人に書き出してもらうとよい。その上で、それぞれの業務に対して、そもそもその業務を行う必要性があるのか、どう短縮するのかといった対策を検討することになる。例えば、かかってくる電話が多いのであれば、こちらからの情報発信不足の可能性もあることから、業務のあり方そのものを見直したいところである。

 また、誰でも同じように業務ができるように、特定の属人的な業務は外部にアウトソーシングするという発想も必要だ。税理士、社会保険労務士、事務代行会社など様々な専門家が世の中に存在し、こうした専門家を活用することで業務を早く、確実に実施することも期待できる。

本人が気付かなかった問題が浮き彫りに
 冒頭に紹介したAクリニックのケースでも、上記のようなアプローチが求められるところだ。「本人が苦に感じていないようだから構わないのでは」ということになりがちだが、周囲のスタッフがプレッシャーを感じたり長時間労働を余儀なくされるなど弊害もあるため、適切に介入することが欠かせない。

 スタッフたちに自身の仕事の内容を書き出してもらい、それは本当に必要な仕事なのか、効率化できる余地はないか、他のスタッフや外部サービスに委ねることはできないかといった点を検討。効率化できる部分があれば介入することが必要だ。

 こうした分析をすることで、本人が気付いていなかった部分(不要な仕事や非効率な部分など)が浮き彫りになることは少なくない。それでも労働時間を減らせないようであれば、スタッフの増員などの対策を検討せざるを得ないだろう。