今回の教訓

 診療所ではパート職員を生かした運営を行うことが多い。常勤者が休暇を取る際にカバーしてもらったり、忙しい時期に勤務時間数を増やして対応してもらったりと、柔軟な運営をしやすくなるのがその理由だ。働く側も、扶養範囲内の勤務を希望するケースが少なくない。診療所によっては、常勤者を雇用せずパート職員だけで勤務体制を組むケースも見られる。

 だが、パート職員の労働時間を巡るトラブルは少なくない。よく見られるのは、採用時は夕方や土曜勤務が可能と申告していたのに、働き始めると、遅い時間帯や土曜勤務が難しいと要望してくるケースだ。

 また、今回紹介したような勤務シフトの「不公平」の問題もよく出てくる。勤務表作成は、院長や事務長(院長夫人など)が、職員の休みの希望を確認し、調整しながら組むことが多い。職員に任せる診療所もあるが、任せる部分が多すぎると職員間の不公平感の問題が発生しやすいので要注意だ。

 任せられた職員が、院長への確認もせず勝手にシフトを変更することも少なくない。誰が勤務するかで院長の診療準備が異なることがあるのだが、その辺を勘案せず、「穴が開かなければよい」という考え方になりがちだ。

 特に、勤務の長いベテラン職員や自己主張の強い職員が担当すると、自分たちの勤務しやすさを優先させることがある。逆に、担当した職員が、各スタッフの要望を聞き入れようと考慮しすぎて疲弊してしまうケースもある。

不利益を被っている職員がいないか確認を
 勤務表の作成に限らず、信頼するスタッフに任せるのは良いことであるが、院長が「気配りをしてくれているだろう」と思っていると、気付いた時には思いもよらぬ形になっていて、「どうしてこんなことになっているの?」とびっくりすることがある。

 任された当初は、「院長に信頼されている、頑張ろう」と意気に感じるものだ。だが、慣れてくると、いつの間にか自分が大きな権限を持っていると勘違いをしてしまうケースが出てくる。他の職員は、おかしいと思ってもなかなか切り出すことはできない。業務を任されている職員に対し思い切って要望を伝えても、事態は改善せず、機嫌を損ねて不利益を被ることさえある。そんなことが重なって退職していく職員もいる。

 職員に重要な業務を任せた時には、任せっぱなしにせずに必ずチェックし、院長の要望を伝えながら自分の目が届くようなシステムや流れを作っておく必要がある。

 ただそれでも、院長から見えないところで不利益を被っている職員がいる可能性は否定できない。そのため、定期的な個人面談の場を利用して、職員間の不公平などの問題が生じていないかどうか確認することをお勧めしたい。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
原田宗記(株式会社宗和メディカルオフィス代表取締役)●はらだ むねのり氏。1957年生まれ。医療法人の事務長、部長を経て1996年、宗和メディカルオフィス設立。医療機関や介護施設の開業、運営コンサルティングのほか、診療所の事務長代行業務を手掛ける。医療法人役員として医業経営にもかかわる。