トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 今回ご紹介するのは、内科系の無床診療所で生じた勤務体制を巡るトラブルだ。同医院では当時、事務職員は常勤1人とパート4人、看護師はパート4人で運営していた。事務は午前3〜4人、午後3人体制で、看護師は午前・午後とも2人体制としていた。

 診療圏内の競合医院が閉院したことで急に患者が増え、パートを増員して上記の体制になったのだが、ライバルの閉院の影響で増えた患者数も半年を過ぎると一時より減ってきた。待合室の広さや受け入れ態勢などに限界があり、待ち時間などの不満から患者が離れたのかもしれない。

 そのため職員が余るようになり、院長は増員から1年後、休診日だった木曜を半日開けることにした。患者数自体を増やし、職員数に見合うものにしようと考えたのだ。だが実際には、患者が分散しただけで1日平均患者数は減少した。事務部門は、曜日によっては3人体制でも余裕ができる日も見られるようになっていた。

 この時点で、院長から「人が余るようになったのでどうしたらいいだろうか」と相談を受けた。増員と同時に電子カルテシステムを導入したため、当初は確かに移行作業もあって忙しかったと考えられるが、その後は慣れて余裕も出てきたようだ。

自分と仲の良い職員と組めることを優先
 ここで、パート職員の給与を確認してみて驚いた。事務部門のパート給与のばらつきが大きかったのだ。増員で入ったパート職員の月収は、最も多いパート職員の半分以下であった。採用面接時に語っていた収入の希望額を大きく下回っている。これでは続かなくなると予想された。

 原因は、勤務表作成の方法にあった。以前は院長が休みなどの希望を聞き勤務表を作成していたが、規模が大きくなったり忙しくなったこともあって、事務・看護それぞれの担当者を決め、勤務表を作成するようにした。事務部門は、一番勤務歴が長い50歳のAさんに任せた。

 Aさんは当初、仮に作成した勤務表を院長に見せて適宜修正していたが、忙しくなるとともに院長は出来上がった勤務表を確認するだけになっていた。そこで、勤務希望がどのように出され、勤務表作成が行われているか確認したところ、次のような方法で作成されていることが分かった。

 まず、Aさんと仲の良い職員が勤務できる日を優先的に埋め、埋まらない日を他の2人に提示し「ここ、出勤できますか?」と確認する。勤務を組む場合は、Aさんは仲の良い職員とできるだけ一緒に組めるようにする。他の2人の休みの要望は聞いておらず、Aさんから打診された日に勤務できない場合には、勤務を変更するのではなく、単に勤務が減るだけとなっていた。そのため、他の2人の収入が少なくなっていたのだ。

 しかもAさんは、スタッフが多く1人当たりの仕事量が少ない日は必ず出勤しており、受付裏で比較的簡単な仕事をしていた。院長はそのことを分かっていたが、勤務をコントロールされた結果であるとは全く気付いていなかった。

 こうした事情が分かったため、勤務表の案を作成した場合は院長が必ずチェックすることとし、勤務表の変更が加わる際には必ずその内容と理由を院長に報告し、了承を得ることにした。また、案を作成する担当者をAさんとは別の事務職員にした。Aさんはその後、勤務表作成の問題などを指摘されて居づらくなったのか、自らの意思で退職していった。