トラブルの経緯

 ミスや問題行為を指摘したら、それっきり出勤しなくなってしまった——。一般企業や医療機関などで時々発生する労務トラブルだ。今回ご紹介する診療所では、事務職員のAさんが突然出てこなくなってしまった。

 Aさんはもともと医療以外の業界の事業所に勤務しており、医療事務講習を受けて資格を取得し求職活動をしていた。西日本の内科系のクリニックに応募し、採用された。

 入職後、仕事は問題なく取り組んでいたが、プライドが高いせいなのか、どうも頭を下げて教えてもらうのが苦手だったらしい。院長は、分からないことは先輩や同僚に教えてもらうように促していたが、仕事ができる先輩のBさんからはあまり教わろうとしなかった。

 ミスをした時などは「Bさんから教えてもらいなさい」と指示し、Bさんにも予め「教えてもらいに来るはずだからよろしく」とお願いしていても、後日Bさんに確認すると「聞きに来ていません」ということが多かった。比較的仲の良いスタッフに確認し、後は自分で調べて対応しているとのことだった。院長は、Bさんに教わらなくても、それで業務ができるようになってもらえばよいと思っていた。

納入業者へのメールを他社に誤送信
 何度かミスはあったものの、1年数カ月が経過。アドバイスを請う姿勢があれば、さらに能力アップできると期待していた。任せる仕事も増えて戦力として計算できるようになり、業者との取引に関する資料作成なども任せられるようになった。

 ところが、この業者とのやり取りでトラブルが発生した。Aさんが納入価格や数量に関する書類を業者にメール送信し内容を確認することになっていたのだが、その2日後、別の会社の担当者から院長に連絡があった。「他社に送る資料を、うちに間違って送っていませんか?」という問い合わせだった。実際、そのメールは医院のアドレスからAさんが送ったものと判明した。

 Aさんは休みを取っていたが、こうした状況だと急いで連絡して対処しなければならない。同院の幹部が早速電話して確認したところ、「アドレスを確認してメールしたつもりなのですが!」と不機嫌そうな口調で反論してきた。他社から直接連絡があったことを説明すると、黙ってしまった。

 普通であれば、とりあえず状況を説明するとか、「善後策を考えたい」といった反応があるはずだが、全くその気配がない。そこで幹部が、「何か言うことがあるのではないですか?」と問いただしても黙ったまま。そこで重ねて問い掛けると、はっきりしない口調で一言、「すみませんでした」と言った。

翌日から無断欠勤、連絡もつかず
 院長らは翌日、本人が出勤してから再度内容を確認し、本来メールを送信すべきだった業者に対応する準備をしていた。ところが、始業時間になってもAさんは出勤してこない。「いったいどうなっているのだろう?」と携帯や自宅に電話しても留守電で通じない。何が起こっているのか分からなかった。

 同僚から電話させても連絡がつかない。ミス発覚後の幹部との電話のやり取りが原因ではないかとも考えられたが、本人から説明してもらわないことには分からない。誤送信の件が原因であれば、周りに迷惑がかかることを承知した上での無断欠勤は許容できるものではない。Aさんが休むことで業務に支障が出ないように勤務表を確認し、いざという時は勤務表の変更も検討することになった。