トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 A診療所に勤務する看護師のB子。時折遅刻をしたり患者応対に問題があったりして、院長は他の職員に悪影響が及ぶのではないかと懸念している。

 そうした中、同僚の看護師C子が院長に対し「なぜ、私とB子の賞与額が同じなんですか」と不満を訴えてきた。どうやら、職員たちが冬期の賞与明細を職場内で見せ合ったことで、賞与が横並びであることが分かったらしい。

 確かに、働きぶりに問題のあるB子と、C子らの賞与が同じなのは不合理だ——。そう考えた院長は、人事評価制度を導入。賞与とリンクさせることで、それぞれの職員への支給額に差が出るように運用を始めた。

「私ほど頑張っている職員はいないはず」
 ところが、思いがけない問題が発生してしまった。翌年の夏期賞与で、院長が独自に作成した人事評価制度によって賞与支給額に差をつけたところ、今度はB子から院長に対して苦情が出たのだ。「私ほど頑張っている職員はいないはずなのに、なぜC子やD子よりも賞与額が低いんですか」。どうやら、夏期賞与でもB子は周りの職員と賞与明細を見せ合ったようで、自分だけが同僚よりも低額であったことにひどくショックを受け、苦情を申し立ててきたのだった。

 B子の働きぶりを考えると、C子やD子と同じ評価にするわけにはいかない。院長はB子に、なぜ評価が低くなったのかを説明した。だがB子は、「確かに遅刻とかありましたけど、普段の業務では人一倍頑張っているつもりです。他の人たちと同じ額ならともかく、低くなるのは納得できません」と言うばかりだった。

 院長は、「こんなに面倒なことになるのなら、いっそ人事評価制度をやめてしまおうか」とも思ったが、C子らの働きを評価する代わりの仕組みも思いつかない。どうしたらよいものかと困り果ててしまった。

今回の教訓

 職員間の能力差や仕事に対する姿勢などの差を感じながらも、特段の対策は講じていないという院長は少なくない。だがそうした中、A診療所のように職員同士が給与明細や賞与明細を見せ合うことで、仕事がよくできる職員から「なぜ、あの人と給与(賞与)額が同じなのか」といった不満の声が出ることがある。

 院長としては、職員がお互いに給与・賞与明細を見せ合うなど思いもせず、戸惑ってしまう。そこで事態を収拾させるため人事評価制度を導入し、評価結果によって賞与を中心に支給額に差をつけるという運用を行うケースが増えている。