人事評価制度導入時の状況を振り返ってみると、院長自身も、賞与に差をつけることが目的ではなく、問題を抱えている職員が自身の課題に気付き、改善に向け行動するよう促すことに重きを置きたいというケースが少なくないはずだ。それなのに、人事評価制度によってコミュニケーションが阻害され、注意すべきことを注意できなくなってしまうのは本末転倒であり、組織風土までおかしくなってしまう可能性がある。

 こうしたことから、特に小規模の医療機関で人事評価制度を導入し運用するのであれば、まずは賞与支給額に差をつけたりすることなく、コミュニケーションツールとして活用することをお勧めしたい。

 一般的には、半年ごとに評価を行うことが多いが、半年に1回把握するだけでなく、人事評価シートを用いて毎月職員と面談をして、改善すべき点を伝えるだけでも職員の行動改善は十分に期待でき、能力向上に向けたアドバイスをすることで仕事の質の向上にもつながる。

 もっとも院長としては、様々な提案を積極的にしてくれ、嫌な仕事に率先して取り組んでくれるような職員に金銭面でも報いたいという思いもあるだろう。そうした職員がいれば、表彰制度を設け、忘年会などの席で全員の前で表彰して金一封を支給するという方法もある。具体的な理由まで明示すれば、周りの職員の納得も得られるだろう。

 人事評価制度に関しては様々な見解があり、上手に運用している例もあると思われるが、筆者としては評価結果により賞与・給与の差を設け、奮起を促すため発破をかけるという発想は、組織風土面において小規模医療機関には向いていないのではないかと考えている。あくまでもコミュニケーションツールとして活用することが本人のためにも、良好な組織風土を醸成するためにも有効ではないだろうか。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。