今年4月、入職・退職により職員の顔ぶれが変わった診療所は少なくないだろう。家族の転勤などの事情で転居し、新たな勤務先に移っていった職員も多いと思われる。諸事情で退職する職員を送り出す寂しさを感じる一方で、困難になりつつある人材確保に関し、ため息をついた院長や事務長もいるのではないだろうか。

 幸い職員を無事採用できた診療所も、安心してはいられない。苦労して採用した職員がなかなか定着しない上、その根本的な理由が分からず、改善できないという悩みもよく聞かれるからだ。そうした中、内科を標榜しているあるクリニックでは、職員が定着しない原因を突き止め、院長が効果的な対策を講じた。今回は、その過程をご紹介したい。

トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 同クリニックは住宅地に開業して20年近くが経過し、かかりつけ医として地域に根付いていたが、受診する患者の年齢層が高くなってきたこともあって、数年前から外来患者の減少がみられるようになった。

 そんな時期に、正職員として勤務してもらっていた事務担当職員3人のうち2人が家庭の事情で退職することとなり、院長はこれを機に事務を業務委託することとした。

 残った正職員Aをリーダーとして、派遣スタッフ2人を採用して業務を行っていたのだが、自院から職員の変更を申し入れたわけではないのに、派遣スタッフが頻繁に交代することが相次いだ。院長としては、業務委託はもともと勤務期間が短いものだととらえていたし、一般的にもこうしたものなのかと最初は考えていた。だが、3カ月に満たずスタッフが交代してしまったり、遅刻が続いたかと思うと突然出勤しなくなったりするケースもあったため、派遣会社に「今よりも長く勤務してくれる人に来てもらえないか」と問い合わせた。そうしたところ、意外な事実が明らかになった。

リーダー職員との間でトラブル
 派遣会社の担当者は「実は、事務リーダーのAさんとの折り合いが悪いと言って派遣先の変更希望を申し出ることが多くて……」と、言葉を選びながら正職員とのトラブルが原因であることを伝えてきた。

 院長は初めて事情を知って驚き、まずは事務以外の複数の看護師に状況を聞いてみた。看護師たちが言うには、Aの言動によって派遣スタッフが落ち込んでいる様子を見たことがあるとのこと。しかし、一方の言い分のみを根拠に問いただすと、院長とAとの信頼関係を壊す恐れがあることから、慎重を期し、より具体的な事実を把握するため、A本人との面談に先立ち、周囲のスタッフが直接見聞きした内容をさらに聞き出すことにした。