Illustration:ソリマチアキラ

 ある連休の中日、昔のMR仲間とゴルフを楽しんでいたボクの携帯電話が鳴った。「うわっ、M先生」。恐る恐る電話に出ると、「ちょっと来て」(ガチャン、ツーツー)。

 普段ならすぐ飛んでいくが、ここは人里離れた山奥のゴルフ場。しかも、久しぶりに会った仲間とゴルフを楽しんでいる真っ最中だ。「ちょっと来て」と言われても…。

 しかし、メンツは元MR。医師から呼び出しがあったときの心のザワつきを皆、経験している。「すぐ行った方がいいよ」「行かないと気になるだろ?」。仲間に背中を押され、胸騒ぎを覚えながら医院に向かった。

 案の定、M院長はイライラした様子で、開口一番、「どういうことなんだっ!!」と机を叩いて怒鳴った。何もそんなに怒らなくてもいいのに、手も痛かろうに、と心の中でつぶやいた。

 最近は、昔と違って理不尽に怒鳴る医師は少なくなった。しかしM院長は、怒鳴るのは偉い人の務めとでも思っているようだ。興奮したM院長の話はイマイチ要領を得ないが、要するに「オレに黙って後発医薬品に変えた」ことに怒っていた。

 60代後半のM院長は、うちの薬局と同じ医療ビルの3階で内科医院を開業していて、1日の患者数は20人程度。後発品が大嫌いで、そのおかげでうちの薬局は後発医薬品調剤体制加算の算定に大苦戦。M院長にお伺いを立てながら少しずつ後発品を採用しているのだが、どうやら若手薬剤師が主病の治療薬を後発品に変えてしまったらしい。とはいえ、処方箋の「変更不可」欄にチェックはないし、変更しても何ら問題のない薬だと思う。「黙って変えた」と怒鳴るなんて、理不尽極まりない。

 ボクは、まるで悪いことをした子どものように、院長の前に立たされて、怒鳴られ続けた。もし冷静に「後発品に変更するときは事前に相談してほしい」と言ってくれたなら、ボクはうちの薬剤師を説得して、そのルールを守らせるようにすると思う。国の施策に逆行しているが、自分の納得のいく薬だけを処方したいという医師の気持ちも分からなくもない。が、そろそろ我慢も限界だ。

 実はそのビルにはM医院のほかに、めちゃくちゃはやっている皮膚科と眼科が入っているから、M医院がなくても薬局経営は困らない。あまりの理不尽さに堪忍袋の緒が切れたボクは、「いい加減にしろ!そんなに気に入らないなら出ていけ!!」と怒鳴り返した──。

 というのは、ボクの頭の中での妄想。最近、事あるごとに一度言ってみようかと、頭の中で練習しつつも、現場で働く薬剤師の顔が頭に浮かび、口に出したことはない。

 言い訳がましいが、1日20枚とはいえ、その処方箋がなくなると数年先には集中率が問題になるかもしれない。結局、ボクは「相談せずに後発品に変えてしまったことは申し訳なかったです。今後は、このようなことのないように徹底します」とわびた──だけじゃなかった。

 「M先生、ジェネリックっていう言葉は既に患者さんたちに浸透していて、中には商品名だと思っているオバアチャンがいるくらいですよ。患者さんは先生には言わないけど、薬局では『安い薬があるんでしょ?』って言うんですよ。『あの先生の薬は高い』と噂にもなっているようですし、あまり影響のなさそうな薬だけでも、一部変更しませんか」と言葉を選んでお伺いを立てたが、先生は無言。

 トホホ、いつまで立ってりゃいいんだよ。社長はツラい。(長作屋)