トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 今回ご紹介するのは、西日本の都市部に立地するクリニックの事例だ。40代前半の院長の下で様々な職種のスタッフが働いており、職員間の仲は良く、それまで労使トラブルに巻き込まれたことはなかった。

 あるとき、「急病や何かあったときに休みが取りづらい」ということで、職員から増員のリクエストがあり、新たにその職種のスタッフを1人雇うことにした。募集広告を出して数カ月間は全く応募がなく、院長がそろそろ募集条件を変更しなければならないかと思っていたところ、20代のA子が応募してきた。国家資格を取ってから1年程度の実務経験しかないとのことで不安材料は幾つかあったが、面接をしてみると容姿端麗な上に笑顔が華やかな印象で、院長はA子のことがすぐに気に入り、その他の点は目をつぶって採用することにした。

 A子が入職して間もなく、事件は起こった。40代の先輩B子に仕事のミスを叱責されたA子が、泣きながら職員控え室にこもってしまい、1時間程度出てこなくなったのだ。B子も対応に苦慮してしまい、報告を受けた院長は診察終了後にA子を呼び出し、話を聞いてみた。

お気に入りの男性患者になれなれしく接し…
 するとA子は、「B子さんは、いちいち細かいことまで指図をするので仕事がやりづらくて、せっかく入職したのにやる気がなくなってきてしまったんです。私は褒められないと、やる気が出ないタイプなので、院長先生も褒めてほしいです」と言った。院長は、「自己中心的なことを言うものだなぁ」と腑に落ちなかったが、最近の若い子はそういうものなのかもしれないと、とにかくA子を諭し、その場をとりなした。

 翌日、院長はB子にA子とのやり取りをかいつまんで話し、「A子はまだ若く、自己中心的なところもあるが、長い目で育てるつもりで接してほしい。指導をする際も、できたときは褒めてあげてほしい」と伝えた。

 それからしばらくは、B子も大人の対応でA子の自己中心的な振る舞いに目をつぶっているようだった。だが後日、再びA子の件で目に余ることがあると、受付のC子とともに相談に来た。

 数日前、A子が院内で、定期的に通院してきている男性患者さんから食事に誘われているところを見たという。その際、A子は、明らかにもったいぶった様子で、「えー、どうしよう。イタリアンですかー? 行ってみたいお店でしたー」と語尾を伸ばして甘えたような口調で受け答えし、誘いに応じていたという。職場でそのようなことをされると、他の患者さんの目もあるし、不謹慎なのではないかということだった。

 さらにC子の話では、A子は男性のあしらい方に慣れているようで、気に入った男性患者さんが来ると受付付近でなれなれしく談笑しているとのことだった。