トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 A診療所で勤務し始めた20代の事務職員B子。最近、本人の父親から労務管理の不備を指摘する電話が入るようになり、院長は困り果てている。どうやら大企業の人事部での経験があり、小規模な事業所の労務管理がいろいろと気になるようだ。

 電話は、「残業があまりにも多いようだが、どうなっているのか」「娘が年次有給休暇を取得できないと言っている。労務管理がきちんとできていないのではないか」といった内容。直接、院長宛てに電話をしてくる。

 A診療所の労務管理が「なっていない」と思っているようで、人事部出身だけあって労働基準法などに詳しく、指摘内容も細かい。「採用時の雇用契約書において、記載すべきことが書かれていないのではないか」といった指摘をされたこともあった。

 既に定年退職をして時間があるためか、毎日のように電話をしてくる上、話も長く、診療が始まろうとしている時間ギリギリまで話をする。娘のことを心配する気持ちは分からないでもないが、忙しいときにいろいろと言ってこられるのは迷惑だ。B子本人はしっかりと真面目に働いており、労務管理などについて何か文句を言ってくることはない。だが院長は、親からの苦情が続くようであれば、いっそB子が辞めてくれればいいのに……などと思うようになってしまった。

今回の教訓

 A診療所に限らず、このところ、医療機関の職員の親から管理者などに苦情の電話がかかってくるケースが散見されるようになった。これは一般企業でも同様で、特に小規模な事業所がそのターゲットとなることが多い印象であり、労務管理の運用の不十分さを指摘されることが少なくないようだ。

 親の介入は雇用前から始まり、採用時の応募の連絡を母親がしてきて、基本的な労働条件を確認したりする。採用後、職員を厳しく注意すれば、両親揃って怒鳴り込んでくる——。このように労務管理に親が介入するというのは、かつてはほとんど見られなかった光景である。

 そもそも、子離れや親離れができていないようであれば、採用しなければよいのではないかという考え方もあるかもしれないが、人材確保難の現状では背に腹は代えられず、やむを得ず採用しなければならないケースもある。院長としては、親から苦情を申し立てられたとしても、近所に住んでいていずれ患者にもなる可能性があることを考えると、むげな対応はできず真摯に対処しようとする。診療に支障が生じることも少なくないが、「その場が収まるのであれば」との思いから、つい対応を続けてしまう。