こうした問題について、どこまで経営者が対応すべきかについては様々な考え方があると思うが、筆者は基本的に対応すべきではないと考えている。なぜならば、雇用契約は、事業所と本人との間で締結されているもので、父親や母親と直接雇用契約を締結しているわけではないからだ。

 従って、仮に直接、こうした電話などを受けたのであれば、「実際に働いているのはB子さんなので、B子さんを通していただけないか」といったように丁重に伝えることが1つの解決策になる。もちろん、伝え方によっては相手を拒絶する印象を与え、激昂する可能性もあるが、親を雇用しているわけではないという前提で考えるべきである。

 これは、前述した、応募の段階で労働条件を母親が聞いてきたり、注意や指導、退職トラブルなどで両親が怒鳴り込んでくるようなケースでも同様だ。本人を通してもらいたい旨を伝えて対応していかなければ、診療に支障が生じるほど振り回されることになりかねない。

叩いてもホコリが出ないような体制に
 親の介入が問題になっているのであれば、同時にスタッフ本人に対してもその事実を伝えておきたい。今回のA診療所のケースでは、父親から頻繁に電話がかかり、診療開始が遅れそうになるなど業務に支障を来している旨をB子にきちんと伝えるべきであろう。スタッフ自身も、頻繁に親から電話がかかってきていることを知れば、恥ずかしくて止めてもらいたいと思うものである。

 もちろん、不備の指摘を受けることがないよう労務管理体制を整えていくことは、最優先で考える必要がある。A診療所のケースでは幾つかの問題があったようだが、叩いてもホコリが出ないような労務管理体制を構築することは、人材確保や定着という観点からも重要であり、残業代の未払いや過度な長時間労働などは論外と考えるべきである。

 もっとも、最近はこうした動きを逆手に取って、採用面接にあえて親の同席を認めたり、親に会うといったところが出始めている。まだ一部の企業でしか見られない動きであるが、親に息子や娘の就職先を十分に知ってもらい、安心感を持ってもらうことで、子が退職したいと両親に相談をした際に引き留めてもらう狙いもあるようだ。

 労務管理を巡る時代の状況は刻々と変わりつつあるが、叩いてもホコリが出ないような体制を整えていくことが、父親や母親と接点を持つか持たないかにかかわらず求められていることは間違いない。職員の親に介入されてトラブルになる前に、自院の労務管理の体制を今一度見直されてみてはいかがだろうか。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。