Illustration:ソリマチアキラ

 その日、ボクは社員の夏季休暇申請書にハンコを押すという、幸せな時間を過ごしていた。それをぶち壊したのは、6月号(「嫌なら、出ていけ!!!」)にも登場したM院長の電話だ。

 「ちょっと来て!」(ガチャン、ツーツー)

 ボクは薬局にすっ飛んで行き、薬局長を問い詰めたが、返ってきたのは「何もないですけどぉ〜」と気の抜けた返事。訳が分からぬままM医院に出向いた。

 「お前は、どういう教育をしているんだっ!」。M院長は顔を真っ赤にして怒っていた。例のごとく要領を得ない話を聞くうちに、今回ばかりはM院長の怒りはごもっとも、とボクは青ざめた。

 怒りの原因は、30代の薬剤師Aの行動。彼は理屈っぽいが勉強熱心で、厚生行政に詳しく、かかりつけ薬剤師の同意取得にも積極的。そのAが、自分がかかりつけとなった患者Bさんの処方を巡り、問題行動を起こしていた。

 Bさんの残薬を整理したところ、複数の薬のうち、なぜか血糖降下薬を飲んでいないことが発覚。それにもかかわらず、HbA1cや血糖値は高めの正常値。Bさんは84歳で、このところ食事量が減っていると話した。

 ポリファーマシー解消が叫ばれる昨今、Aは薬剤師の腕の見せ所と思ったのだろう。Bさんに「ほとんど飲めていないようですし、検査値も安定しているので、血糖降下薬を一旦やめましょう」と話し、Bさんの同意を得て、血糖降下薬を除いた薬を一包化して交付したらしい。

 そして、「Bさんは血糖降下薬を飲んでいない日が多いようですが、血糖コントロールは良好です。次回から血糖降下薬を中止してください。Bさんも納得されています」とトレーシングレポートを作成し、クリニックの事務員に「M院長に渡してほしい」と託したという。

 2週間後、再来局したBさんが持ってきた処方箋には、前回同様に血糖降下薬が処方されていた。そこでAは同じように血糖降下薬を交付せず、さらに次の来局時も同様に対処し、トレーシングレポートを持参しながら「このクリニックは、事務スタッフと医師の連携ができていないな」とつぶやいたらしい。

 な、なんてこった。ボクはひたすら謝った。

 冷静を装い薬局に戻り、Aに「君のやったことは、医師の処方権の侵害だよ」と説明したが、「無意味な薬を減らすのは薬剤師の仕事。M院長こそ、ボクの提案をちっとも聞いてくれない」と、反省するどころかM院長を批判する始末。「どうせ飲めていないし」とAは言う。

 いや、ならば飲めない理由を探り出し、医師の指示通りに飲めるように工夫するのが薬剤師の務めではないか。

 患者のことを考えるなら、まず医師の処方意図を聞いた上で、薬剤師としての考えを伝え、処方を変更してもらうべきだ。たとえ医師がその場では聞き入れなかったとしても、変更してもらえるまで提案し続けるのが筋。薬が必要な状態かどうかを判断するのは医師の仕事だからだ。

 その処方が本当に問題ならば、患者に何か不都合なことが起こらないか注意して、逐次、医師に報告するのが薬剤師の仕事。

 これらの努力をせずに、勝手に処方を変更し、良いことをしたと思っているのは、勘違いも甚だしい。なぜそれが分からぬ……。

 いつもM院長には理不尽に怒られているが、こちらが理不尽なことをしてしまったときの方がよっぽど気が重い。

 外ではセミが鳴いている。ボクも心で泣いている。社長はツラい。(長作屋)