どうしてそんなことをするのか。単純に「新人が気に入らないから」というものではなかったようだ。意外なことに、「新人が入って1人当たりの業務が減り、早く帰宅するようになると困る。だから新人を辞めさせたい」という心理が働いていたと分かった。

 早く帰れた方がよいはずなのに、なぜわざわざ、自分たちの仕事を増やすようなことをするのか。理由の1つは「姑」の存在だった。地方に立地する当院では、スタッフの多くは姑と同居している。姑がいる家には早く帰りたくない。「仕事で遅くなった」となれば、早帰りしないことの大義名分となる。

 もう1つの理由は残業代だった。新人が入って、全員が早帰りするようになれば残業代が減る。それは困るということのようだった。

 その他、新人をいじめていた理由として、「指導をする」ことが「自分が優位に立つ」ことであると勘違いしてしまっていたところもあったようだ。「自分たちはこんなにレベルが高い価値あるスタッフだ」と私たちに誇示したかったのかもしれない。

辞めていった職員たちのことを思うと…
 自分たちのやり方次第で新人をクビにすることもできる状況になったことで、先輩スタッフたちが「人事権」を持つような状態になってしまった。院長と私は、新人教育を完全に先輩スタッフに丸投げしてしまったことに一因があると反省し、次のような対策を講じた。

 まず入職時のオリエンテーションでは、時間をかけて事務長である私がじっくり面談をする。そして、新人への指導内容は院長、私と先輩、新人スタッフ間で共有。事務長である私に必ず報告してもらうようにした。新人スタッフにとって、「雇用者」は先輩スタッフではないという意識を持ってもらうことからのスタートである。

 また、院長は先輩スタッフに、「この新人スタッフを『育ててほしい』」と、当院の仲間として迎えたいという決意を表明。新人スタッフからは、毎日の勤務の最後に、その日の業務内容について報告をしてもらうことにした。

 こうなってくると、先輩スタッフたちも好き勝手に振る舞うわけにはいかなくなる。新人スタッフには「指導で行き過ぎと感じる部分や、理不尽と思われる部分があれば、院長か事務長にすぐに気兼ねなく話してほしい」と伝えることも忘れなかった。こうして、新人に対する「人事権」は無事に院長に戻り、新人も伸び伸びと、持っているものを伸ばしてくれるようになった。

 私たち経営者側の未熟さゆえに、理不尽ないじめを受けて辞めていったスタッフたちのことを思うと、今でも心が痛む。本当に申し訳なかったと思う。その後、幸せな人生を送ってくれていることを祈るばかりである。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
天尾仰子(ペンネーム)●日経ヘルスケア、日経メディカル Onlineの連載コラム「はりきり院長夫人の“七転び八起き”」著者。開業20年目の無床診療所で事務長として運営管理に携わり、医院の活性化に日々努めている。