開業後、患者数が順調に増え経営も安定してきた……と安心していたころ、人事労務管理の問題に直面した。

 オープニングスタッフだけでは手が足りなくなってきたのである。勤務時間が長くなり、残業代も半端ない金額になってきた。残業代だけで、あと1人は雇う事のできるほどの金額である。

 在職スタッフは、音を上げずによく頑張ってくれている。スタッフのためにも、人員の補充をしなければならないと考えた。スタッフにも「補充をしたい」と話し、面接、採用にこぎ着けた。勤務形態が良好になり、余裕を持って仕事ができ、職場環境も良くなるはず、だったのだが……。

当初は「辞められても仕方ない」と考えていたが…
 採用したスタッフが、なぜか試用期間内に次々と辞めていく。いったい何が悪いのかと、辞めていく人たちに聞いても、「私はレベルが低いので」「ここは務まりません」などと言うだけで、具体的なことは何も語ってくれない。院長(夫)も私も、「辞められてしまうのは致し方ない。当院で働きたいという人はたくさんいるはず」などと、今から考えると何とも傲慢な考えで次の求人を出していた。

 しかし、こうも次々に辞めていく新人を目にすると、こちらもどんどん弱気になっていく。「何か、私たちが把握できていない問題があるに違いない」と思うようになった。

 新人への業務指導はスタッフに丸投げしていたので、スタッフたちに聞いてみた。「能力が低い」「とても一緒に仕事をできない」「私たちではフォローできない」「仕事ができない新人がいるため、雰囲気が悪い」「今の雰囲気を壊されたくないから、できない新人などいらない」などと言ってきた。新人スタッフの能力がそれほど低いとも思えないのだが、在職のスタッフに「士気が下がる」「足手まといで仕事が増える」など言われてしまうと、院長も私も信じてしまい、せっかく採用した新人を引き留めることもしなかった。

新人が1人で対応せざるを得ない状況に追い込む
 だがその後、意外な事実が分かってきた。先輩スタッフたちの指導能力が欠けていたのみならず、新人に対するいじめも発生していたのだ。新人と院長・私による毎日の業務報告会の際に明らかになった。

 それも、一見しただけでは分からない巧妙な形で行われていた。例えば、受付が立て込んで来たら、先輩たちがさっと他の業務に移り、新人1人が対応せざるを得ない状況にする。新人は、しどろもどろになって対応。患者はイラつき、新人は針のむしろに座らされたような状況になる。

 すっかり新人が萎縮してしまった頃合いを見計らって先輩スタッフが現れ、患者に新人の不手際を詫び、自ら患者に対応する。新人は自分のせいで先輩が頭を下げる姿を見せられ、余計に委縮してしまう。追い打ちをかけるように、先輩には「これ、教えたわよね?」と言われ、ますます自信がなくなる——。そんな状況に陥っていたことも多々あったらしい。