Illustration:ソリマチアキラ

 ボクは若い頃から、早く引退して悠々自適の生活を送ることを夢見てきたが、いまだその夢は叶っていない。最大の理由は後継者の不在。

 「このままでは、いつまでたっても引退できないじゃないか」と考えたボクは、数年前に会社の組織をガラリと変えて、若い社員にできるだけ仕事を移譲すべく努めてきた。

 社長の重要な仕事といえば、処方する医師とのコミュニケーションが挙げられる。ボクは製薬企業のMR時代に築いたネットワークを最大限活用して院外処方箋を出してもらうというベタな店舗展開をしてきた。新たに開業する勤務医には、銀行の融資の受け方や医薬品卸との付き合い方、スタッフの採用の仕方、従業員が労働基準局に駆け込んだときの対応などに加えて、親族が亡くなったときの相続のことなど、何から何までアドバイスしてきた。

 しかし、そうした医師も長らく開業していれば、それなりに修羅場を経験する(そのたびにボクは呼ばれていたのだが…)。今では、昔ほどボクを必要としなくなっている。

 ボクにしても、店舗の数が少しずつ増えていったから、かつてのように頻繁に医師のところに顔を出せなくなっている。そんな事情が相まって、医師も「社長は忙しいだろうから」と、よほどのことがない限り連絡してこなくなった(机を叩いて激怒する某先生だけは、この限りにあらずだが…)。

 そんなボクの代わりに、エリア長がクリニックに足を運び、医師からお小言を聞いてくれている。昔は全ての医療機関の納涼会や忘年会に欠かさず顔を出していたが、それもエリア長に任せるようになっている。

 会社組織が大きくなるにつれて、人事課、経理課、店舗運営課、企画課など、それぞれが充実してきたので、調剤報酬改定への対策、人員配置や採用活動、機器の購入、店舗展開、個別指導対策などなど、多くの仕事はボクがいなくても回るようになってきた。

 残された社長の大きな任務に「物事を決める」というものがある。これが案外、時間が掛かるし、ストレスの多い仕事だ。そこで、その権限を各部署の責任者に移譲してみた(もちろん今でも、重要な案件についてはボクが決めているが…)。

 当初は「危なっかしいな」と、ヒヤヒヤする場面も多かったが、極力口を出さずに任せるよう努めてきた。その甲斐あってか、最近は多くの案件が承認するだけで済むようになってきた。

 先日、薬局長会議の後、近くの居酒屋に飲みに出掛けた。薬局長たちは、これからの薬剤師・薬局はどうあるべきか、我が社は何をすべきかといったことを熱く語り合い、終電の時間も忘れて盛り上がっていた。少し離れたカウンターで大将と飲んでいたボクは、なんともうれしい気持ちになった。自分たちが会社を背負っていくという自覚が芽生えてきているようだ。任せてみるものである。

 相変わらず雑務はあるものの、少しずつ時間に余裕が出てきたので、ふとこのコラムを振り返ってみた。

 記念すべき連載第1回は2013年6月。当初は1年続けばいいと思っていたのに、数えてみたら、なんと連載50回を超えているではないか!! 我ながらよく続けてこられたものだ。若者たちの成長と相まって、しみじみと感慨深い気持ちとなった。

 しかし、忘れているのか、気付いていないのか、あえてなのか、編集長はそんなこと一言も言ってくれない……。

 やっぱり社長は褒めてもらえない。(長作屋)