トラブルの経緯

 お中元やお歳暮の時期になると、取引業者や連携先の施設などから医療機関に贈答品が届く光景が見られるようになる。

 今回ご紹介する西日本のAクリニックにも、これらの時期にはお菓子やジュースなど多様な贈答品が届いていた。同クリニックは、開設して20年になる有床診療所である。

 診療中、院長は贈答品の内容を詳細に確認できないので、とりあえず休憩室に全て置いておき、休憩時間に確認して仕分けする。スタッフに分けられるものについては「皆さんで」と付箋を貼る。「食べてよい」と分かると、幾つものお菓子の箱を片っ端から開けて中味を確認し、これは美味しい、これは美味しくないと吟味し始める少々お行儀の悪いスタッフもいるが、院長はスタッフたちが喜んでくれるのを嬉しく思っていた。

院長が自宅に持ち帰ろうとしたところ…
 ある年の暮れ、少し重量のある贈答品が届いた。食品のようだった。院長は贈り主を確認し、スタッフ用の休憩室へ持っていくように事務職員に指示。その後、院長は休憩時間に中身を確認し、自宅に持ち帰ることを決め、持ち帰り用の紙袋に入れて置いておいた。

 その日は午前中のみの診療で、院長は午後から研修に出掛けたため、贈答品はそのまま休憩室に置いて帰宅した。ところが翌日、院長が午前中の診察を終え、昼休みに休憩室に顔を出してみると、箱ごとなくなっていることに気付いた。どこかに保管されているのかと思い、スタッフたちに確認をしたが誰も分からないと言う。

 スタッフ用の休憩室を使っているのは、看護師、リハビリ職、事務職、薬剤師、診療放射線技師、修繕・保守担当のスタッフである。更衣室は男女別とした上で、休憩室は男女共用としており、休憩時間は職種、性別を問わずに休憩室で昼食を取ってもらうなどしている。スタッフたちは、業務中でも休憩室に立ち入ることができるが、基本的にはすぐ業務に戻る。

 休憩室は施錠しているわけではなく、外部の者や患者が勝手に入ったのかもしれないと院長は考えた。いずれにせよ院内で物品がなくなり、その原因が分からない以上、防犯カメラを確認するしかない——。そう思った院長は、セキュリティー会社に依頼し、防犯カメラの記録を確認してみることにした。

 付近の防犯カメラとしては、院内の廊下と建物の外側に設置したものがある。廊下の防犯カメラは、休憩室の出入り口が見える位置に設置されていた。

 まず建物外側に設置したカメラをチェックしたところ、休憩室の窓から侵入した者はいないことが分かった。院長は次に、廊下のカメラを確認してみた。すると、院長が紛失に気付いた日の午前の診療中、修繕・保守担当スタッフBさんが出入りしている姿が確認できた。そして何度か出入りを繰り返した後、お歳暮が入った紙袋を持って廊下に出てくるBさんの姿が映し出された。