今回の教訓

 院長や職場の管理者が、医療に関係ない部分のトラブルを、なるべく穏便に済ませようとするケースは時々見られる。特に、仕事の能力を評価していたり「使い勝手」が良い人材は、辞められたら困ると思い、指導しながら何とか対処しようと考えるが、なかなか思うようにはいかない。

 些細なトラブルだからといって、大目に見ることを繰り返していると、周りのスタッフにマイナスの影響を与えることに注意しなければならない。スタッフたちは、管理職が同僚をどう処遇しているかを客観的かつ冷静に見ていることが多い。今回紹介したクリニックで、スタッフたちのBさんに対する評価は当然低かった。「どうして、何度も問題を起こしているBさんがここに居続けられるのか」という疑問の声が出ていたのだ。

 こうなると、スタッフたちは「院長に気に入られれば何でも許されるのか」と考え、やる気が削がれ、仕事の質が落ちていくこともある。経営者としての姿勢が問われ、院長自身の信頼を失うことになりかねない。社会的に問題がある行為については、誰もが納得できるような対応を取らなければならない。

 今回は中高年者の活用の過程で生じたトラブルだった。医療や介護の現場できちんと職務をこなし、職場に貢献している中高年者は多い。貴重な戦力となり得る中高年者だが、留意しておきたいのは、一定の年齢を超えると、「変わる」ことが難しくなりやすいという点だ。

 筆者の経験では、ある程度の年齢に達しているスタッフがトラブルを起こすと、繰り返すことが多い。一定の年齢を超えてもトラブルを起こす人材は、長年の仕事のスタイルや癖があって、注意してもなかなか改善しないことが少なくない。

 ベテランだからという理由で大目に見ていると、大きな問題につながりかねないし、前述のように若いスタッフたちへの影響もあるので、芽が小さいうちに摘み取ることが不可欠だ。どんな問題でも、最終的には全てが院長の責任へとつながることに注意をしなければならない。

 ちなみに、長年の「癖」ということで言えば、雇う側の人材採用も長く続けていると癖が出てきやすい。同じようなパターンの採用を繰り返し、同じトラブルに見舞われるという例を、これまで何度か見てきた。何かトラブルが発生した時は、雇用者側が自らの考えを変えるチャンスでもあると捉え、対処していただければと思う。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
原田宗記(株式会社宗和メディカルオフィス代表取締役)●はらだ むねのり氏。1957年生まれ。医療法人の事務長、部長を経て1996年、宗和メディカルオフィス設立。医療機関や介護施設の開業、運営コンサルティングのほか、診療所の事務長代行業務を手掛ける。医療法人役員として医業経営にもかかわる。