院長は意を決して、こう告げた。「C美の今までの仕事の功績については評価している。しかし他のスタッフから叱責の仕方や指導の仕方について苦情が出ている。うちのクリニックは職員同士のチームワークを重要視している。今の君のやり方では若いスタッフがついて行けない。このままだと主任職を降りてもらいD恵に代わってもらわざるを得ないよ」。D恵は、C美の次にキャリアが長い事務スタッフだ。C美は憮然として「はい」と言ったきり、部屋を出て行った。

 ほどなくしてC美は辞表を提出した。院長は、経験豊富な「戦力」が抜けることに喪失感を抱きつつも、「これでスタッフたちが委縮せず、伸び伸びと仕事をできるようになる」と胸をなでおろした。

今回の教訓

 スパン・オブ・コントロールという経営用語があり、一般的な事務職では、1人の管理者が管理できる部下の人数は5〜7人といわれている。

 スタッフの人数が増えた場合に、中間管理職を置き、そのスタッフに部署の管理をしてもらうのは、院長の負担軽減という意味においても有用である。しかし、その中間管理職に人事管理を任せきりにすると、今回のようなことが起こる。

 中間管理職と、その下で働くスタッフたちに対しては定期的に個別面談を行い、中間管理職が適切にマネジメントをしているか、部下たちの不満が募っていないかを確認することが欠かせない。そして問題が発覚したら、毅然とした態度で対処する必要がある。

 院長が中間管理職に任命するのは、多くの場合、院長から見て仕事ができる職員だ。そうした職員にあまり厳しいことを言ってモチベーションが下がったり辞められたら困ると考え、中途半端な対応になっているケースはよく見られる。だが、問題を放置すると部下が次々に辞め、日常業務に支障を来すことにもなり得る。

 そもそも、仕事ができることのみをもって管理職に任命することは感心できない。本来、管理職はスタッフそれぞれの適性を生かし、気持ちよく働ける環境を作ることが第一の役割であり、それができる人材を選び、期待する役割をきちんと伝えることが重要である。今回は、B子の訴えを聞いた院長の対応が迅速だったため、大事に至らずに済んだが、このような管理職を放置していると全体のモラールダウンが起こり、ハラスメント体質の組織風土になりかねないので、十分注意していただきたい。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
加藤深雪(特定社会保険労務士、株式会社第一経理)●かとう みゆき氏。日本女子大人間社会学部卒業後、2003年第一経理入社。企業や医療機関の人事労務コンサルティングを手掛け、中小企業大学校講師や保険医団体の顧問社会保険労務士も務める。