Illustration:ソリマチアキラ

 ボクが愛してやまない、イタリアワインの奇才、アンジェロ・ガイヤ。高級ワインが好きだと言っているわけではない。ボクは、アンジェロのワイン造りの哲学が好きなのだ。

 彼が登場するまでのイタリアワインといえば、大量生産がウリだった。ガイヤ家は18世紀からワインを造り続けてきたが、4代目当主であるアンジェロは、それまでの常識を打ち破った。彼は大量生産をやめて、土地にこだわり、水にこだわり、樽にこだわり、量は少ないながらも質の高い個性が光るワイン造りを目指したのだ。イタリアワインの伝統を守りつつも、常に革新的な新技術を取り入れ、イタリアワインの地位向上に最も貢献した人物の1人とされる。

 ボクも、数は少なくてもいいから、何かキラリと光るものがある個性的な薬局をつくることを目標としてきた。現実問題として、薬局数や応需処方箋枚数を競えば、資本力で負ける。他の薬局を買収したり、門前の土地を力づくで押さえたり、そんな薬局づくりはボクにはできなかった。量じゃなく、服薬指導の質や地域への貢献度で勝負する方がボクには向いている気がしていた。いずれ薬局も、質が問われる時代がやってくるだろうと信じて…。

 今春の調剤報酬改定では、薬局の取り組みを評価する新しい点数はあるのだろうか。在宅患者訪問薬剤管理指導料も、病院薬剤師の病棟薬剤業務実施加算も、点数がつかない時代に先駆的に取り組んだ先人たちがいたからこそ、できた点数だ。ボクの薬局の取り組みが、いつの日か新しい点数になればいい。いや、新しい点数になるような取り組みをしていかなければならない。歴史をつくるのはボクたちだ! 本当にそんな思いで薬局をつくってきた。

 いまだボクの薬局の取り組みから新たな点数が生まれたことはないが(笑)、それでも20年ほど前から医療機関と合同で、今で言う健康フェアのようなことをやったり、お薬手帳に様々な書き込みをして、病気の記録として患者さんに活用してもらう工夫をしたり、いいと思ったことは実行してきた。在宅医療にも早くから取り組んできたから、今では地域包括ケアの担い手として地域にどっぷり浸かっている薬剤師もいる。

 そんな薬剤師たちがやりがいを持って働けるように環境を整えることがボクの仕事だ。同様に、ワイン造りの主役はあくまでブドウであり、造り手はブドウがおいしいワインになるのを助けるだけ。いかに熟成させるかが造り手の腕の見せ所なのだ。そういう意味でも、アンジェロとボクは同じマインドだ(と思う)。

 実は昨年の夏休みに、イタリアワインの聖地、ガイヤ家の醸造所があるイタリアのピエモンテ州を訪れた。街並みに圧倒されながら集落を抜けると、その先はブドウ畑がどこまでも広がっていた。そして丘陵地帯の頂に、ブドウ畑と集落を見下ろすようにガイヤ家の屋敷がそびえていた。ボクもあんなお屋敷に住みたい。だって、彼を目指して今まで頑張ってきたのだから。

 アレッ???日本の大手薬局チェーンの社長が、高級住宅街に大邸宅を建てたと聞いた時は、特に羨ましいとも思わなかったのに。やっぱり社長たるもの、大邸宅を建てたくなるものなのか。いやいや、ボクにはまだ早い。今年も、汗水を垂らしてブドウ畑を耕し、おいしいワインを造ることに専念しよう。(長作屋)